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菅義偉政権の退陣を歓迎~最後に残された三つの宿題

政治の信頼回復に不可避。今こそ創業政治家の意地を

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

退任表明のきっかけは……

 実際、最近の菅政権は坂を転げ落ちるかのように支持率が低下の一途をたどり、首相の地元である横浜市長選では、支援した自民党系候補が大敗を喫した。さらに、自民党総裁選を前に党・内閣の人事を刷新しようとすれば、党内での「菅降ろし」の動きが勢いを強めることとなった。

 大きな決断のきっかけとなることは、意外なほどささいな事である場合が、往々にしてある。今回の菅首相の退任表明の場合、総裁選の党員投票において、神奈川県がまとまらないことが大きく影響しているのではないかと、私は思っている。

 総裁候補を擁する自民党県連は、地元の候補を結束して推すというのが通例だ。ところが今回、神奈川県連は、①横浜市長選で敗北、②首都圏で有権者が流動的、③候補(菅首相)の人気が下降――ということで、地元が盛り上がらない。

 候補にすれば、それは恥であり、なんとしても避けたい事態なのだが、それを覆すたけの日数も手立てもエネルギーももはやない。とすれば、総裁再選を諦めて、コロナ対策一本に活路を見いだすということだろう。菅首相の政権の目玉とした「デジタル庁」が9月1日にようやく発足したものの、政権浮揚の切り札になり得なかったことも、首相の気力に水をかけたのではないか。

“マイナス”からの出発だった菅政権

 退任表明によって、菅首相は今月いっぱい、政務に没頭できることになった。総裁選をめぐる駆け引きから身を引いて、コロナ対策をはじめとする様々な課題に、心身を傾けて取り組むことができるわけだ。

 菅氏は1年前、安倍晋三首相退陣後の政権を引き受けた際、前政権から二つの重い荷物を引き継いでいる。一つは、言うまでもなく、前政権がてこずったコロナ対策を立て直すこと。もう一つは、前政権で次々と起きた「政治とカネ」の問題に対応することであった。

 だから、菅政権は“マイナス”からの出発だったと言ってもいいだろう。政権への不支持の中には、前政権に対する強い不満も含まれているのである。

拡大総裁選への出馬断念を表明し、取材の冒頭で一礼する菅義偉首相=2021年9月3日、首相官邸

政治が信頼を取り戻すための三つの“宿題”

 私は、菅首相には残り少ない任期の間に、次の三つの“宿題”に注力することを願っている。いずれも、すっかり地に落ちてしまった観のある日本の政治が、国の内外からの信頼を取り戻すために避けては通れないものだ。

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筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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