花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
民が離れ、官僚が萎え、同僚議員も離反~私利に囚われた末の退陣表明の構図
何より、深刻と思うのは、官僚機構が換骨奪胎されたことだ。
安倍内閣が旗印とした官邸強化で縦割り行政が是正されると期待したが、結果は、省庁幹部の人事権を官邸が握ることにより官僚が骨抜きになってしまった。中心となって進めたのは官房長官だった菅氏だ。官僚操縦のカギが人事であることは疑いない。これを各省が分掌すれば「縦割り」となり、官邸が集中管理すれば「忖度」を生む。人事はかくも難しい。
しかし、骨抜きと忖度では官僚機構は機能しない。何より、そんなところに入ろうと思う有為な若者がいない。組織は人だ。どれだけ優秀な人材を集められるかがカギだ。明治以来、日本は官僚が高い地位を占めてきた。それは弊害もあったが、官僚の士気を高めることにも役立った。この士気が萎えて何の官僚組織か。
「已むに已まれぬ思い」を内に持たず、単に政治を「権力」を軸に見ると、自らがその「権力」を喪失しかねないという極限状態で思わぬ行動に出てしまう。
総裁選の対抗馬が「党役員人事は一期一年で三期まで」と打ち出した時、菅総理は何を思ったか、自らも「党役員人事の刷新」で対抗するとした。
得意の人事で、政権浮揚が可能と判断したのかもしれない。しかし、残り僅かの任期しかなく、就任してもすぐ辞めなければならないかもしれない。何より、役員に就任すれば次の政権で干されることもあり得る。そういう「泥舟」に、好き好んで乗り組もうという向きは普通はない。案の定、人事で行き詰った。