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エルサルバドルのビットコイン法定通貨化が教えてくれる世界の送金事情

中低所得国の移民が本国の家族に送金するコストの削減は長年の課題

塩原俊彦 高知大学准教授

実際の送金コスト

図4 200ドルの送金にかかるコストの推移(現金、デジタル決済、世界平均)
拡大図4 200ドルの送金にかかるコストの推移(現金、デジタル決済、世界平均)
(出所)Remittance Prices Worldwide (2021) World Bank, Issue 37, p. 6,
 図4は200ドルを送金するのにかかるコストの推移を示している。まず、現金に基づく従来型送金コストは徐々に逓減傾向にあるものの、その速度は遅い。一般的に、移民労働者が送金業者に現金を手渡す出発地での場合と、銀行口座を持たない家族に現金を手渡す目的地での場合とで、物理的な現金が使われる。その結果、送金業者は現金分配のためのアクセスポイントを開設することになるが、その運営コストは顧客に転嫁される。一般的な送金には複数の仲介業者が関与することが多く、受取国の金融インフラが脆弱な場合はなおさらであり、こうした構造がコスト削減を難しくしている。

 デジタル決済送金のコストは10年ほど前には10%以上であったが、急速に低下し、目標とされている5%に近づいている。送金サービスのための新しい非ブロックチェーン型のフィンテックビジネスモデル(TransferWise、WorldRemit、Remitlyなど)が登場したことで、業務の効率が大幅に改善され、コスト削減につながっている。携帯電話の普及により、国際送金にモバイルマネーを利用するケースが増え、新しいモデルでは送金サービスが安価に提供されている。

 Global System for Mobile Communications Association(GSMA)が45カ国を対象に行った調査によると、2016年にモバイルマネーを利用して200米ドルを送金した場合の平均コストは、世界の送金業者を利用した場合の6%と比較して、2.7%だったという(資料を参照)。また、モバイルマネーの引き出し手数料を考慮しても、モバイルマネーを使って200ドルを送金すると、従来の送金手段よりも平均で21%、50ドルを送金すると36%も安くなる。ただし、高所得国の人口の約75%がモバイルを通じてインターネットに接続可能なのに対し、低・中所得国の人口(約26億人)のわずか40%強しか接続できない状況にあることを忘れてはならない(資料を参照)。

 2020年第4四半期の世界の平均送金コストは6.5%と高止まりしており、持続可能な開発目標の目標値である3%の2倍以上となっている。平均送金コストは、南アジアで最も低く(4.9%)、サハラ以南のアフリカでは引き続き最も高く(8.2%)なっている。

 強調しておきたいことは、多くの小規模な送金回廊では、コストが法外な状態が続いている点だ。「たとえば、キューバへの送金コストは9%を超えている。また、日本からブラジルへの送金も高額(11.5%)だ」という(資料を参照)。

エルサルバドルの場合

 2021年9月7日付のロイター電によると、エルサルバドルのナジブ・ブレケ大統領は、ユーザー一人につき30ドル相当のビットコインの提供を約束し、エルサルバドルの人々が送金手数料を年間4億ドル節約するのを助け、銀行口座をもたない人々への金融サービスへのアクセスをあたえることになるとのべているという。

 だが、この節約額は多すぎる。前述したように、エルサルバドルの2020年の送金受取総額は59億ドルにすぎず、これにともなう送金コストは平均コスト(6.5%)を乗じると、3.8億ドルになるが、ビットコインを使っても送金コストがゼロになるわけではないから、4億ドルの節約になるというのはあやしい。

 ただし、2021年8月27日に交付された「ビットコインの法規制」によると、その第七条において、エルサルバドルの銀行は国が提供するデジタル・ビットコイン・ウォレットを通した場合、「ウォレットのエンドユーザーに手数料を発生させないような方法でサービスを提供しなければならない」と規定されている。とはいえ、雄のヤギを意味し、「クール」という意味をもつ俗語「Chivo」と呼ばれる、このウォレットのアプリの最初の展開は「大失敗」で、サーバーダウンする事態に追い込まれた(資料を参照)。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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