デジタル庁の発足で高まるIT化推進への期待の背後に垣間見える不都合な真実
2021年09月20日
9月1日、鳴り物入りでデジタル庁が発足しました。ジャーナリストの堤未果さんは、大きな権限と予算を握る同庁について、強い警戒感を示します。世界に「追いつけ、追い越せ」とばかりに進められる日本のデジタル政策に潜むリスクとは何か。私たちはそうしたリスクにどう対応すればいいのか。本稿と動画(3分間)で考えてみてはいかがでしょうか。(論座編集部)
◇動画
9月1日、デジタル庁が発足した。菅義偉首相の突然の辞任表明から自民党総裁選挙へとなだれ込んだ政局に、やや印象が薄れた感はあるものの、日本にとって極めて重要な省庁が生まれたことは間違いない。
デジタル化は休みなく進展し、社会のさまざまな場面で利便性が追及されている。そのスピードは日増しに強まっているようだ。それはスマホの多様な使われ方を見るだけでもわかる。これからさらにどんな可能性が広がるのだろうかと、期待を抱いている人も多いだろう。
しかし、利便性の裏にはデメリットがある。無自覚なまま、便利を追求することにかまけていると、気付かないうちにとでもないことが起きると、ジャーナリストの筆者は近著で警告する。タイトルは『デジタル・ファシズム』。穏やかではない。明るい未来どころか、どこか気味の悪い未来を予告するかのようでもある。
私たちはいま、デジタル社会のどういう場所=「現在地」に立っているのか。内外の具体的事例をふんだんに使って解き明かすこの本に込めた問題意識とは、一体何なのか。
また米国にとどまらず、米国に追随し、同じ轍(てつ)を踏もうとしている日本社会や政治のありようにも、批判の目を向ける。人間性や公共性を失った社会は、個人にとってとてつもなく過酷なものになるという意識があるからだ。
そうした社会を招来せしめる最大の原因は、ビジネスの巨大利権であり、マネーへの飽きなき執着と信奉である。そこに、デジタルという新たな要素が加わるとどうなるか。「今だけ金だけ自分だけの強欲資本主義が、さらに獰猛になる」と著者は懸念する。
デジタル社会というのは、利便性と引き換えに個人情報が企業や国家に集積されるシステムの社会ということでもある。個人情報がしっかりと守られているならいいが、IT企業に利用され、やがて国家に吸い上げられたらどうなるか。すでに中国では顕著だが、日本もそうならないとは限らない。
身近な所から説明しよう。いま各省庁は、様々な分野でデジタル化を進めている。マイナンバーカードと国民の情報を一元管理(総務省)、デジタル教科書(文部科学省)、マイナンバーカードと健康保険証の紐づけ(厚生労働省)。こうしたあらゆる省庁の担当プロジェクトを、デジタル庁は全て配下に収めることになる。補助金申請などの業務もまとめてデジタル庁が管轄するという。
日本の行政は中央も地方も縦割で、手続きに時間がかかり、効率が悪いことは確かだ。そこで各省庁、地方自治体がバラバラに運営していたデジタル情報をひとつにまとめようというのがデジタル庁だ。必要なのが「政府共通プラットフォーム」というシステム。製造・販売元であるベンダーとして選ばれたのは、米IT系大手の「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」である。
日本政府のプラットフォームをなぜ、米国のIT企業がつくるのか。本書によれば、2015年に日本年金機構がサイバー攻撃を受け、個人情報が流出した事件に遠因がある。政府は共通プラットフォームに安全ゾーンを追加するよう国内企業に依頼。ところが、頑丈な安全システムはできたものの、使い勝手が悪く、使われないまま18億円がムダになったのだ。そこで採用されたのがAWSだ。
それでも利用しやすければいいではないか、と思うかもしれない。しかし話はそう単純ではない。アマゾンは「CIA(米国中央情報局)やNSA(米国国家安全保障局)など、米国の諜報機関との関係が深い企業」であり、「CIAと契約を結び、2020年にキース・アレクサンダー元NSA局長を取締役に迎えている」。アレクサンダー氏は、NSAによる米国民の大規模な盗聴を指揮したと言われる人物。
さらに、米国に有利な協定も日米間で結ばれている。「アマゾンのような企業が日本でデジタルビジネスをする際に、その企業に個人情報などを管理するデータ設備を日本に置く要求は、2020年1月に発効した『日米デジタル貿易協定』によってできなくなっている」という。またアマゾンに限らず、グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフトの「GAFAM」といったIT大手の持つデータを、米政府は令状なしで開示請求することもできる。18年に米で成立した「クラウド法」に基づくもので、米国内に本拠地を持つ企業にはすべて適用される。
こうした日米のアンバランスな関係の中で、私たちの個人情報が米国に漏洩(ろうえい)したり、盗まれたりするリスクがあることを著者は示唆しているのだ。
一方、「いかなる組織も個人も政府が要求すれば全てのデータを提出しなければならない」という国家情報法を持つ中国。この米中二大国が、デジタルを使った情報利権の苛烈(かれつ)な覇権争いをする狭間で、デジタル庁が産声を上げたのだ。
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