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デジタル・ファシズムへの不安 利便性の背後にあるものは~堤未果の警告・上 

デジタル庁の発足で高まるIT化推進への期待の背後に垣間見える不都合な真実

高瀨毅 ノンフィクション作家・ジャーナリスト

日本政府のプラットフォームを米国のIT企業がつくる

 身近な所から説明しよう。いま各省庁は、様々な分野でデジタル化を進めている。マイナンバーカードと国民の情報を一元管理(総務省)、デジタル教科書(文部科学省)、マイナンバーカードと健康保険証の紐づけ(厚生労働省)。こうしたあらゆる省庁の担当プロジェクトを、デジタル庁は全て配下に収めることになる。補助金申請などの業務もまとめてデジタル庁が管轄するという。

 日本の行政は中央も地方も縦割で、手続きに時間がかかり、効率が悪いことは確かだ。そこで各省庁、地方自治体がバラバラに運営していたデジタル情報をひとつにまとめようというのがデジタル庁だ。必要なのが「政府共通プラットフォーム」というシステム。製造・販売元であるベンダーとして選ばれたのは、米IT系大手の「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」である。

 日本政府のプラットフォームをなぜ、米国のIT企業がつくるのか。本書によれば、2015年に日本年金機構がサイバー攻撃を受け、個人情報が流出した事件に遠因がある。政府は共通プラットフォームに安全ゾーンを追加するよう国内企業に依頼。ところが、頑丈な安全システムはできたものの、使い勝手が悪く、使われないまま18億円がムダになったのだ。そこで採用されたのがAWSだ。

私たちの個人情報が米国に漏洩?

 それでも利用しやすければいいではないか、と思うかもしれない。しかし話はそう単純ではない。アマゾンは「CIA(米国中央情報局)やNSA(米国国家安全保障局)など、米国の諜報機関との関係が深い企業」であり、「CIAと契約を結び、2020年にキース・アレクサンダー元NSA局長を取締役に迎えている」。アレクサンダー氏は、NSAによる米国民の大規模な盗聴を指揮したと言われる人物。

 さらに、米国に有利な協定も日米間で結ばれている。「アマゾンのような企業が日本でデジタルビジネスをする際に、その企業に個人情報などを管理するデータ設備を日本に置く要求は、2020年1月に発効した『日米デジタル貿易協定』によってできなくなっている」という。またアマゾンに限らず、グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフトの「GAFAM」といったIT大手の持つデータを、米政府は令状なしで開示請求することもできる。18年に米で成立した「クラウド法」に基づくもので、米国内に本拠地を持つ企業にはすべて適用される。

 こうした日米のアンバランスな関係の中で、私たちの個人情報が米国に漏洩(ろうえい)したり、盗まれたりするリスクがあることを著者は示唆しているのだ。

 一方、「いかなる組織も個人も政府が要求すれば全てのデータを提出しなければならない」という国家情報法を持つ中国。この米中二大国が、デジタルを使った情報利権の苛烈(かれつ)な覇権争いをする狭間で、デジタル庁が産声を上げたのだ。

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筆者

高瀨毅

高瀨毅(たかせ・つよし) ノンフィクション作家・ジャーナリスト

1955年。長崎市生まれ。明治大卒。ニッポン放送記者、ディレクターを経て独立。『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』『ブラボー 隠されたビキニ水爆実験の真実』など歴史や核問題などの著作のほか、AERAの「現代の肖像」で人物ドキュメントを20年以上執筆。ラジオ、テレビのコメンテーターなどとしても活躍。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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