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メルケル首相が去る~奇跡の在任16年をもたらした政治家としての特質

決断が遅く、物言いは地味で、カリスマ性に欠ける彼女はなぜ政治家として大成したのか

宇野重規 東京大学社会科学研究所教授

優しいけれど頑固で厳しい「お母さん」

 第二に強調したいのは、メルケルの慎重さと同時に果断さである。

 秘密警察(シュタージ)の目だけでなく、ごく親しいと思っていた友人や隣人によっても密告される危険性のあった東ドイツにおいて、彼女の慎重さは自ずと形成された。彼女の父は自らの理想ゆえにあえて東ドイツに赴任した牧師であったが、社会主義国においてその立場は微妙なものであった。政治家になる以前から、メルケルは慎重にならざるを得なかったのである。

 しかも彼女の科学者としての資質は、時間をかけて仮説を立て実験を行い、その上でようやく理論化して実行するというスタイルを生み出した。必然的に結論を出すには時間を要するが、いったん結論を出すと思い切ってそれを貫くのも彼女の強みであった。

 実際、メルケルは脱原発へと舵を切る前は、他の保守的な議員たちと同じく原発を擁護する立場にあった。大規模な難民受け入れについても、逡巡を重ね、検討を進めた上での決断であった。

 最初から華々しい理念を掲げるわけではない彼女は、理想主義的というよりは、その時々の状況で変化するプラグマティックな政治家とみなされがちである。とはいえ、いったん決めて仕舞えば、以後はいかに多くの批判や反対を受けても揺るがない。

 そのようなメルケルは、批判的なニュアンスも含めて「ムッティ(お母さん)」と呼ばれた。優しいけれど、ちょっと頑固で厳しいところもあるお母さん、というところだろうか。

裏切りや駆け引きを辞さない策士

 第三に触れておかなければならないのは、メルケルの「マキャヴェリズム」である。

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筆者

宇野重規

宇野重規(うの・しげき) 東京大学社会科学研究所教授

1967年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。同大学社会科学研究所准教授を経て2011年から現職。専攻は政治思想史、政治学史。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、『保守主義とは何か』(中公新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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