世界最速で進むアジア太平洋地域の高齢化 私たちに準備はできているか?
急速な人口動態の中で人々が尊厳を持って歳を重ねられるために必要なこととは
ビヨン・アンダーソン 国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋地域事務所長
人口の高齢化は脅威ではなくチャンスだ
私たちは今、人口の高齢化が一体何を意味するのかを再考しなければならない。
人口高齢化は、政府が国の開発に成功した証として祝福すべきことであり、実際、それ以外の何ものでもない。なぜなら、健康、栄養、経済、社会福祉といった分野で持続的な前進を続けた結果、多くの人々が長生きできるようになったからだ。
人々の平均寿命が伸びる一方で、少子化も進んでいる。これには、夫婦にとって子どもを何人も持つ余裕がないというワーク・ライフ・バランスなど、様々な要因が関係している。
しかし、そもそも少子化と長寿化という社会現象自体が問題なのではない。本当の問題は、私たちがこの急速な人口動態の変化に立ち向かう準備ができていないということだ。
政府は今こそ、行動を起こさなければならない。政策立案者は有識者や市民社会と協力し、人権を中心に据えた高齢化政策や制度を、国家の開発計画に組み込まなければならない。
アジア太平洋のいくつかの国では、すでに高齢化対策が講じられてきている。だが、新型コロナウイルスの感染拡大や人道危機などで、高齢者がより弱い立場に追いやられる状況においては、施策の実施により一層の努力が求められる。
ジェンダー平等に根差すライフサイクル・アプローチが重要

出生時から幼少期、思春期、成人期までライフサイクルを通して人々に投資をしていくことが、人口高齢化に対応する最良の策である。 (Photo: © UNFPA Sri Lanka/ Ruvin De Silva)
アジア太平洋地域では、高齢者人口の半数以上が女性であることを踏まえ、ジェンダー平等と人権に根差したライフサイクル・アプローチを取り入れることが重要になる。
高齢化社会においては、女性は生涯にわたって存在するジェンダー差別により、さらに不利な立場に置かれることになる。とりわけ高齢の女性は、一般に教育水準が低く、家事など所得による対価が得られない労働を担うことが多いため、高齢の男性に比べて他者への経済的な依存が高くなる傾向がある。
人々がどのような人生を歩むかは、それぞれのライフステージへの投資によって決まっており、それは生まれる前からすでに始まっている。
女性が子どもを安全に出産できれば、母子ともに健康な状態が長く続く。少女たちが包括的な性教育を含め質の高い教育を受けることができれば、思春期や成人期に起こりうる人生を変えるような出来事について、十分な情報を得た上で判断できるようになる。女性が男性と平等に働く機会が与えられ、からだの自己決定権を持つことができれば、自らの手で未来を切り開くことができる。
女性たちが人生の様々な局面で自ら決定すること、それが許されることが、より健康的で経済的にも安定した老後を送ることにつながるのだ。
残された時間は少ない
私たちは今すぐ行動を起こさなければならない。急速な人口動態の変化という巨大な潮流が、アジア太平洋地域のみならず世界全体で社会のあり方を大きく変えているからだ。
国連は2020年から30年までの10年間を「健康な高齢化の10年」と宣言した。これは、来年で20周年の節目を迎える「高齢化に関するマドリッド国際行動計画」(MIPAA)を補完するもので、アジア太平洋地域、さらに世界中の各国政府が集まり、これまでの進捗を振り返るとともに、今後の課題に向けたプランを策定する。
人口高齢化に対応する単一的かつ包括的な政策は存在しない。そのため、すべての世代の人々のニーズに応える形で、先進的かつ人権とジェンダー平等を実現する政策に投資をしていかなければならない。
そうすることで、アジア太平洋地域の国々は、誰ひとり取り残すことなく、すべての人にとってのより良い未来を目指し、達成することができるのである。

人口高齢化に関する政策は、ジェンダー平等と人権に配慮したものでなければならない。 (Photo: © UNFPA Indonesia)