花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
独国民は「メルケル路線」を総選挙の論点に意識する。日本はもっと議論と意思表示を
ドイツでは、「メルケル路線の継続」が選挙の論点としてはっきり意識された。この点、日本はどうか。
ドイツ連邦議会の総選挙が9月26日に迫る。現在の勢いでは、メルケル首相のキリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)が連立を組む社会民主党(SPD)が勝利しそうだ(SPD:25%, CDU/CSU:21%, 緑の党:16%, 9月23日、Kantar世論調査)。その意味するところは、「ドイツ国民は、変化を望んでいない、メルケル首相後継のCDU/CSU新党首には不満があるが、メルケル路線自体はこのまま続いてくれることを望んでいる」ということだ。
メルケル首相就任後の16年、ドイツ国民は大方満足できる生活を送ってきた。EU拡大の果実を独占的に享受、中国市場への進出も進み、欧州債務危機も何とか乗り切って、経済は順調に推移してきた。ドイツ経済がEUの中で飛びぬけた位置を占めるにつれ、ドイツの発言力も増大、EUはドイツ抜きでは語れないほどになった。
そのメルケル路線が躓いたのが、2015年の難民危機だ。全国に難民が溢れ、国民は、こんな事態は到底受入れられないと反発、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)がついに議会に進出した。この難民危機が引き金となり、メルケル首相は2021年秋限りでの引退に追い込まれた。
難民に関しては、ドイツ国民は依然メルケル路線に反対だ。しかしそれを除けば、メルケル路線がこのまま続いてくれることこそ、ドイツ国民が望んでいることといっていい。