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安倍・菅政治は「強権」だったのか~9年の総括の要諦とコロナ禍で見えた課題

強権政治、官邸主導、世代交代、政策論争、派閥融解……メディアの当たり前に疑義

御厨貴 松本朋子 曽我豪 岡村夏樹 吉田貴文

安倍政権の「強権」をめぐる三つの疑問

松本 選挙では、政策論争をするか、業績論争をするか、そのどちらかというのが原則だとすれば、今回の総裁選で政策論争が前面に打ち出される理由のひとつは、業績が芳しくない点にあるのではないでしょうか。4候補は、安倍・菅政権の一端をみな、何らかの形で担っています。ここ数年、コロナ対策などで世評が高くない安倍政権や菅政権の業績を総括するのは得策ではないという判断はあると思います。

 私からは、「強権」について幾つかお伺いしたいことがあります。データによると、安倍政権下では、議員立法の成立割合が、55年体制の時代、小泉純一郎政権、民主党政権の頃より明らかに低い。具体的には、安倍・菅政権時代の議員立法の成立割合は17%程度、55年体制下の1980年代の34%の半分です。これはなぜかというのが一つ。

 また、参議院では、自民党は単独で過半数の議席をとれておらず、公明党との連立で過半数を確保しています。昨年、後期高齢者の一部について、医療費の窓口負担が引き上げられることになったとき、対象年齢について自民党は公明党に譲歩しています。こうした公明党との関係は、「強権」にどれだけ影響を与えているのかというのが、二つ目の問いです。

 さらに、安倍政権は発足直後をのぞいて、内閣支持率が異常に高かったわけではありません。それでも、小泉郵政解散の造反議員以降、自民党からの大量離党はなかったし、内閣不信任案が可決しそうになったこともなかった。これは、安倍・菅政権の「強権」とどう関係しているかというが三つ目の疑問です。

拡大松本朋子さん

単純な独裁者ではない安倍の強かさ

曽我 松本さんのこの三つの疑問に、この9年間の実相が入っていると思います。実は私が安倍さん、麻生さん、菅さんの3人から一番じっくり話を聞いたのは、自民党が野党時代の3年間(2009~2012年)でした。再度の政権交代に向けた準備について、しっかり聞けた記憶があります。安倍さんは当時、第1次政権の反省点をノートに記していましたが、そのとき安倍さんが口にしていたのは、「1回目の政権のときは、内閣支持率が高すぎた」ということでした。

 高支持率に甘えて、教育基本法改正など保守的な諸改革を一気に進めようとして失敗した。支持率が高いことはあまりうれしくない。そのかわり、常に政党支持率を見る。政党支持率で野党に勝っていればいい。それが3人の認識でした。

 今回の総裁選でも、麻生さんは自民支持率を落とさないことを第一に考えています。派閥が前面にでるような総裁選をやってはいけないというのも、そんなことをすると政党支持率に悪影響を与えて、衆院選で負けるというリアリズムが麻生さんにはあります。

松本 以前、1950年代以降の内閣・政党支持率を分析したことがありますが、それによると内閣支持率が自民支持率を下回ると内閣が総辞職するということが定量的に出ていました。そして、第2次安倍政権以降、内閣支持率が自民支持率を下回るということは、菅政権まで起こらなかった。安倍さんが内閣支持率より政党支持率を重視したことはさておき、内閣支持率が自民支持率よりを上回り続けたのは、安倍政権の特徴だと思います。

――自民支持率に留意しつつ、内閣支持率はそれを上回り続けるようしたというのは、党内を押さえ込む安倍政権の強かさの現れととらえるべきでしょうか。

曽我豪さん拡大曽我豪さん

曽我 安倍さんは強い権力を欲してはいるけれど、無理な手法はとらない。オポチュニスト、機会主義者です。日銀総裁交代のときの決め方は、閣内で議論させて最終的に自分が選ぶという形での強権です。闘いを演出し、その光景を外に見せて、最後に「いいとこどり」をするのが安倍の手法。安倍さんを単純に強権主義者、独裁者とみると、安倍の強かさを見誤ると思います。

 確かに、安倍政権で自民党から議員立法の機運が失われたのは事実です。立法を通じて党内に異なる政策の旗を立てられないよう、そういう芽を摘んでいったからです。そのかわりにポストを与えました。「党風一新の会」の今一つ大勢を決める迫力を欠くのを見ても、9年間、権力闘争のトレーニングをさせてもらえなかった人たちが急にバッターボックスに立たされて、腰が引けているという感じがします。

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