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イギリスと日本 新型コロナ対策にみる医療資源の投入の仕方、そして増税

日本との政策の違い、スピード、投入量

石垣千秋 山梨県立大学准教授

 人流抑制に重点を置いた日本の新型コロナウイルス感染症対策は、いまになって臨時の医療施設の設置や医療機関の活用が話題になっています。イギリスではこの間、どのような医療政策のもとで対応してきたのでしょうか。「医療制度から考える新型コロナ危機」シリーズで2020年4月、イギリスの大胆な新型コロナ対策をリポートしてもらった政治学者の石垣千秋さんが再び解説してくれました。日本との政策の違いが浮かび上がってきました。(「論座」編集部)

日本より感染者や死者が多い状態でも社会生活を再開

 イギリスでは2021年7月19日、新型コロナウイルス(SARS-CoV2、通称Covid-19)の感染予防のため、1年以上にわたって実施されていた「人と人の距離の確保」、「マスクの着用」、「集会の制限」といった対策がほぼ全面的に解除された。当初は6月下旬の解除される予定だったが、規制が4週間延長された後の解除だった。

 解除の数日前の記者会見でボリス・ジョンソン首相は、「このウイルスとの闘いはまだ終わっていない」という厳しいコメントを残している。実際、9月24日の感染者数は約3万6000人、感染が確認された人の死亡は180件、これまでの死亡者数は約16万人。緊急事態宣言中の日本より感染者、死者数も多い状態で、社会生活が再開されている。

イギリスと日本2020年4月、エリザベス女王がNHSに感謝の言葉を贈る巨大広告=Matteo Roma/Shutterstock.com

新型コロナウイルス対策の体制

政府の主席科学顧問と主席医療官が専門家をリード

 2020年1月にイギリスで最初の感染者が発見されてから1年半あまり、イギリスの新型コロナウイルス感染症対策の司令塔となったのは、内閣府に設置された危機対策本部(Cabinet Office Briefing Rooms、略称COBR。メディアの多くなどではCOBRAという略語が用いられている)である。

 中国武漢市で新型コロナウイルスが発見された直後、1月上旬から情報収集を開始。ジョンソン首相を本部長に、関連分野の大臣、関係機関の責任者が参加し、感染拡大状況の監視と対策立案にあたった。保健・ソーシャルサービス省、ランカスター公領大臣(起源は王室の領地管理を行う大臣だが、現在はNHS以外の公共分野のコロナ対策を担っている)、大蔵省、外務省が中心となる対策を担い、他の省庁や関係機関が連携した。

 大枠では日本と似ているが、大きく異なるのは対策本部に専門的な助言を行う専門家組織の規模である。科学的助言を実施する専門家組織はSAGE(Scientific Advisory Group for Emergencies)と呼ばれ、政府の公職にある主席科学顧問(Chief Science Advisor、現主席科学顧問 Patrick Vallance氏)が率いる。また、「国家の医師」と呼ばれる主席医療官(Chief Medical Officer、CMO)もSAGEのメンバーの一人だ。

 他のSAGEメンバーは公の場には登場せず、2020年7月までは名前も公表されていなかった。首相の会見の場には多くの場合、主席科学顧問と主席医療官(CMO)が共に同席し、専門的な質疑に対応している。

 感染状況の分析、データの提供を行い、COBRAに専門的な助言を行う専門家組織として、SAGEの存在感は絶大だ。2001年に設置され、2003年3月にWHO(世界保健機関)によってSARS(重症急性呼吸器症候群)のパンデミック宣言が行われた際は、政府に助言する機関としても機能した。

 80人を超える専門家がメンバーであり、その多くがイギリスの名門大学の研究者、または公衆衛生の実務にあたる医学者である。感染者数の予測モデルや行動変容の分析集団、呼吸器疾患の専門家のネットワーク等のサブグループがある。

イギリスと日本ロンドンのワクチン接種センター=Alexey Fedorenko/Shutterstock.com

政治と科学者の距離

 まだわずかな感染者しかいなかった2020年1月22日に開催されたSAGEの第1回会合の席で、すでに国境封鎖を主張する専門家もいた。欧州最大のヒースロー空港から新型コロナウイルスが国内に持ち込まれる可能性があったからだ。

 しかし、EU離脱(Brexit)を前にして、経済への影響を心配した政府はこの助言を検討しなかったとされる。3月12日、ジョンソン首相は国民向けの演説で新型コロナウイルス感染症が公衆衛生上の危機であることに触れ、「愛する人を多く失うだろう」と述べた。だが、この時点では国民に厳しい行動制限は課さず、当初イギリスの感染症対策は他の欧州諸国よりもずっと緩やかだった。

 首相演説の2日後(3月14日)、イギリス内外の500人を超える科学者が、規制を強化しなければ数週間のうちに何百万人もの犠牲者が出ること、NHSの集中治療室がひっ迫することで、他の病気の患者を不要なリスクにさらすことになると主張し、より強力な感染症対策を講じることが必要だとする意見書を発表。政府は対策を厳しいロックダウンへと急転換させた。

イギリスと日本2021年3月、新型コロナウイルス感染症への注意を知らせるロンドンの街頭パネル=cktravels.com/Shutterstock.com

多面的な新型コロナ対策法で広く課題を網羅

 一方、当初の緩やかな対策の最中にも、法整備は進められていた。イギリス政府は根拠法「新型コロナ対策法案」(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド各地の関連法、例えば精神保健法、年金関連法などの改正内容を含む)を議会に提出。3月19日に最初の審議が行われ、3月25日に成立した。

 同対策法案は、緊急時の医療関係者の臨時復職制度、▽最前線の医療スタッフに対する事務的業務の簡素化、▽臨時ボランティアの動員、▽メンタルヘルスの維持政策、▽NHSの運営体制、▽死亡・死産登録、▽食糧供給体制、▽教育機関の休校、▽感染可能性がある国民に対する行動制限、▽イベントや集会開催についての政府の権限強化、▽傷病休暇取得の緩和策、▽年金制度の臨時変更、▽刑事司法手続きの一時的変更、▽地方選挙の延期、▽遺体の保管及び処理、▽産業界への資金援助など、感染症が拡大する時に予想される課題を、幅広く網羅するものになっている。

 ただ、短い審議時間で膨大な領域にわたる法を制定したことに野党を中心に批判が強く、2022年度以降、検証委員会が設けられる見込みである。ロックダウンの規制内容は、健康保護法(1984年制定、直近改正2021年)の条項をその都度改正することによって、規制内容が定められた。

イギリスと日本2021年3月、公園を走るイギリスのジョンソン首相=Mr Pics/Shutterstock.com

各病院では救急専門医や感染症を専門としない医師、看護師も配置換え

 2020年3月3日には、保健・ソーシャルケア省からイギリス全土(スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを含む)に対する行動計画が発表され、政府の役割、各地域機関の役割や対応方針が示された。3月17日にはイングランドのNHSの運営を政府から委託されているNHSイングランドから、新型コロナへの体制整備について、各地域の運営機関や病院に通知がなされた。通知の発表前から、各病院では救急専門医や感染症を専門としない医師、看護師の配置換えを行い、感染者への対応を最優先する体制が徐々に整えられた。病状が深刻化しがちな循環器や呼吸器疾患の手術も延期された。

 政府は基金を創設してNHSイングランドへの財政支援をするとともに、NHSを退職した看護師と医師6万5000人に対して、臨時に職場復帰を求める依頼状を送付した。依頼状に応えた退職者のほか、学生も動員され、感染拡大の渦中だった2020年4月30日、1万8200人の臨時スタッフが動員された。うち看護師が約1万100人、その約7割は看護学生である。また、一般国民にボランティアを呼びかけ、病院への受診支援、退院時の自宅までの移動支援、自己隔離している人への食料の配布などに何十万人もが参加した。

イギリスと日本2021年4月、パブやレストランで飲酒や食事を楽しむロンドンの人たち=Sandor Szmutko/Shutterstock.com

政府は民間医療機関から8,000床と治療にあたるスタッフを買い上げ

 通知により、病床や医療機器の確保も進められた。緊急性の低い手術の延期、退院可能な患者の早期退院などにより、少なくとも3万床の病床確保が目標とされた。

 通常はNHSの制度外で診療を行っている民間医療機関から、政府は病床8,000床及び治療にあたるスタッフを買い上げたほか、臨時の病院を設営(ナイチンゲールホスピタル)した。こうして病床確保を進めた結果、3月17日時点で1万2600床だった病床は、4月12日には5万3700床まで増加した。

 また、民間病院に人工呼吸器の提供を依頼したほか、必要な医療機器の増産をメーカーに呼びかけた。こうして2020年春の「第1波」の感染流行に対する体制が急速に整えられた。

イギリスと日本2021年4月、ロックダウンやワクチン接種、マスク着用、ワクチンパスポートに反対するロンドンのデモ=Devis M/Shutterstock.com

新型コロナ最優先で通常医療への対応は大きく低下

 日本でも報道されているように、イギリスの感染者は日本とは比較にならないほど多く、約16万人が死亡している(2020年9月24日現在)。さらに医療機関での新型コロナ対応を最優先した結果、通常医療への対応が大きく低下した。2020年4月時点でGP(General Practitioner)からの紹介による受診や予定入院が、例年の4分の1程度に低下していたとするシンクタンクの分析もある(2020年7月22日 Nuffield Trust)。

 イギリスの新型コロナ対策で重視されたのは、イギリスが世界に誇る医療制度、NHSを崩壊させないことだった。それは「命を救おう、NHSを救おう、家にいよう(Save lives, Save NHS, Stay home)」という対策のスローガンにも表れている。

イギリスと日本2021年5月、人があふれるマンチャスターの中心地=estherpoon/Shutterstock.com

遅れたケアホームでの感染対策

 その一方で、高齢者の入所施設や障害者施設などを含むケアホームでの感染対策について政府の危機感は薄く、当初は新型コロナウイルス感染症に見合った感染対策の指示がなされなかった。ケアホームでの対策強化の必要性に政府が気づき、感染防止のガイドラインによって対策が強化されたのは4月半ばだった。

 政府の危機感の問題だけでなく、感染防止のためのマスクや医療用ガウンなど(PPE)不足も、「第1波」の感染拡大当初には問題になった。医療機関でのマスクなども新型コロナウイルスの感染を防止するためには不十分なレベルだったが、ケアホームでは流通経路が医療機関とは異なっているために一層不足する状況であり、現場が要望する量の10%程度しか供給されなかったという。

 ケアホームでは、さらに入所者の感染を確認する検査が当初は十分に実施されなかったこともあり、高齢者を中心に感染が拡大、そのケアを担う職員にも感染が拡大し、多くの死亡者が出た。2020年4月下旬、1週間でケアホームで約8000人、病院では同じ週に約1000人が死亡し、ケアホームの死亡者は病院の8倍に上った。第1波でケアホームに入所する大切な家族を亡くした遺族たちは、政府に大きな不信感を抱いている。

イギリスと日本出典:Office for National Statistics

大規模検査体制の整備

第一波の後、1万8000人の職員を採用して追跡調査体制を整える

 2020年の第1波は5月下旬頃から落ち着き、全土一律での行動制限は徐々に緩和された。その後、指標に基づいた地域ごとの行動規制に移行していった。

 第1波が落ち着き始めた5月下旬、政府は検査の拡充と感染者の追跡調査を充実するために、新たにNHST&T(NHS Test and Trace)を設立した。NHST&Tは保健・ソーシャルケア省の組織と位置づけられ、首相と保健・ソーシャルケア大臣が直接指示をする。200以上の官民検査機関と契約して検査体制を拡充すると共に、1万8000人の職員を採用して感染者の追跡調査のための体制を整えた。

 ただし、追跡調査は運営が軌道にのっても50%を超える程度の捕捉率にとどまり、結果としてNHST&Tの業務は検査が中心となった。感染予防に効果的な検査方法や精度管理について、専門家組織SAGEが助言を行っている。会計検査院の推計では、2020年度、NHST&Tに380億ポンド(1ポンド=150円、5700億円)の費用が投入された。

 検査は新型コロナウイルスへの感染が疑われる人、濃厚接触者を対象にPCR調査を実施するほか、NHSの職員やソーシャルケアに従事する職員、またエッセンシャルワーカーを対象に実施している。全国展開するドラッグストアの店舗などを検査会場とするほか、アマゾンの協力を得て自宅に検査キットを配送しての実施も拡大してきた。検査数は最大で一日189万件にまで達した。上記の調査以外に大規模な抗原検査や新たな検査方法を開発するなど、感染の実態を把握するための検査も展開してきた。

イギリスと日本出典:The official UK government website for data and insights on coronavirus (COVID-19) 注:イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの各地でデータの扱いが異なる。また、集計に含めている検査方法にも途中で変更がある。 (https://coronavirus.data.gov.uk/details/about-data#uk-1 2021年9月16日)

 検査体制が充実したことにより、感染が流行している地域では症状がない人も含めて検査を実施することが可能になったほか、小中学校や大学での検査も実施されてきた。

2020年秋以降の感染拡大

感染者が多い地域では郵便番号で指定された地区全体で検査実施

 2020年秋以降、気温の低下と共に感染は再び拡大し、2021年初頭、イギリス全土でこれまでで最も厳しいロックダウンが開始された。同居家族以外に介護等を必要とする人が世帯以外の人と接することは認められていたが、子どもにも感染が多いことを理由に学校も閉鎖された。宗教行事と結婚式は、ごく少数に人数が限定された上で例外的に許可された。

 NHST&Tの運用によって拡充された検査能力を活かし、感染者が多い地域では郵便番号によって指定された地区全体に対して検査が実施された。だが、死者数も第1波より多く、最も多い時には1300人を超えた。

イギリスと日本出典:Office for National Statistics (https://coronavirus.data.gov.uk/details/about-data#uk-1 2021年9月16日)

世界に先駆けたワクチン接種

死亡者を多く出したケアホーム最優先で接種

 2020年12月8日、ロンドン市内の病院で91歳を迎える女性にファイザー(・バイオテック)社のワクチンの接種が行われた。イギリスの命運をかけたワクチンである。

 ワクチンの接種はジョンソン首相を最高責任者とし、製薬関係に精通したベンチャー・キャピタリストの民間人をトップとしてタスクフォースを結成した。タスクフォースの役割は、ワクチンを国民に可能な限り早く提供すること、国際的にワクチンの提供と配分を担うこと、また将来のパンデミックに備えて長期にわたるワクチン開発計画を策定し、製薬企業を支援することだった。ワクチン購入のためにタスクフォースが交渉した製薬企業は7社以上ある。

「希望の灯台-英国ワクチン・ストーリー」

 ワクチン接種の優先順位について助言するなど、実際の提供にあたって科学的知見を提供したのは、やはり専門家組織JCVI(Joint Committee on Vaccination and Immunisation)だった。JCVIはもともとポリオのワクチンの評価のために設立された公的、独立機関であり、やはりイギリス有数の大学、大学病院の研究者から構成される。新型コロナウイルスのワクチンについての責任者はノッティンガム大学病院の専門家である。

イギリスと日本2021年6月、ジョンソン首相がイギリスでの封鎖緩和の延期を発表した日に抗議する封鎖反対派=JessicaGirvan/Shutterstock.com

 この優先順位のなかで、接種の最優先とされたのは、第1波で死者を多く出したケアホームに入所している高齢者とケアにあたるスタッフだった。二番目には80歳以上の高齢者と最前線で治療にあたる医療者、ソーシャルケアの従事者、三番目に75歳以上の高齢者、四番目に70歳以上の高齢者と重症化リスクのあるその他の年齢層の人と、優先順位は10段階に設定された。

 ワクチンの打ち手の確保のため、政府は2020年10月に「ヒトに対する医療規制法」を「新型コロナウイルス及びインフルエンザ規制法 2020年」に改正し、医療者以外にも一定の研修を受講した一般ボランティアが接種をできるようにした。打ち手の拡充に努めた結果、接種数は多いときで80万件を超えた。そして、接種が進むにつれて死者数は顕著に減少してきた。

イギリスと日本出典:死亡者数:Office for National Statistics ワクチン接種者数:The official UK government website for data and insights on coronavirus (COVID-19)

ロックダウン解除のための4ステップ

 2021年2月22日、ジョンソン首相は下院で「ロックダウン解除」のための4ステップを下院で説明した。

 解除のステップ1として、3月8日に学校や保育施設の再開。ステップ2として、4月12日に(これまで休業していた生活必需品以外の)小売店の再開、飲食店やパブなどの屋外営業を許可。ステップ3になると、イギリス人の生活に欠かせないパブの屋内営業が許可され、大規模イベント(1000人または収容人数の50%以下)も再開された。

 ステップ4は、当初6月21日から人と人の距離確保やマスク着用も含む規制が全面解除される予定だった。だが、イギリスも日本や他の国と同様に、インド由来の変異種(WHOの名称デルタ)で感染状況が収まらず、全面解除は7月19日に延期された。

 現在も日本より感染者、死者も多い状況にあり、国民にも規制の全面解除についての不安感はなくなっていない。だが、下院でジョンソン首相は今回の解除が「自由への一本道」(2021年2月22日)と述べており、再びロックダウンを実施しないという強い決意を示している。

イギリスと日本2021年7月、イングランドの保養地ライムレジスで楽しむ人たち=Vivvi Smak/Shutterstock.com

今後に向けての取り組み

2022年4月から所得税、法人税を増税し、NHSとソーシャルケアの立て直しへ

 規制の全面解除後、徐々に感染拡大前の風景が戻ってきた。先日起きたアフガニスタン問題では、アメリカと共に国際社会で主導権を握ろうとするジョンソン首相の姿もメディアに登場するようになった。

 だが、新型コロナウイルスの感染者の動向は今も決して楽観できる状態ではなく、NHSの医療の状況も感染症前80-90%程度のパフォーマンスだと言われている。感染症を優先した医療体制の下、先送りにされた治療を数カ月間待つ人も少なくない。

 もっとも、現在の保守政権になってから医療財政の緊縮により受診待機者が多く、専門家たちも新型コロナウイルス感染症の医療ひっ迫への影響を評価するのは難しいとしている。過去10年あまり力を入れてきたがん対策も、かなり後退したとも言われている。

 2021年9月に、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する対策と医療体制、ソーシャルケア体制の拡充のための新たな動きがあった。

 まず、2022年4月から所得税、法人税を1.25%増税し、NHSとソーシャルケアの立て直しの財源にされることが決まった。また、変異種による子どもへの感染が頻発することを理由に、12歳から15歳の子どもにもワクチンの接種が進められることになった。ワクチンの専門家組織JCVIは、子どもへの接種はメリットが少なく、心筋症の可能性もあるため推奨していないが、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの各主席医療官(CMO)が決定した。

 9月14日には秋から冬にかけての感染対策計画が発表され、50歳以上の国民とケア従事者などにワクチンの追加接種、いわゆる「ブースター接種」が行われることも決定した。一方、2020年3月に成立した新型コロナ対策法のうち、今後必要がないと予想される条項は順次削除していく方針だ。

イギリスと日本2021年9月、ロンドンの学校帰りの中学生たち=Yau Ming Low/Shutterstock.com

 イギリスは、日本と比べて感染者、死者とも桁違いに多く、かけがえのない人を亡くした多くの人が今も悲しみの中にある。当然、政府や首相への批判も多い。だが、新型コロナウイルスをめぐって、ジョンソン首相や主席医療官、主席科学顧問らは頻繁に開催される会見で、記者はもとより、時には直接国民からの質問にも時間をかけて答えてきた。対策に際して法整備がなされたほか、第1波が過ぎた後、議会で政府の対応について検証作業が行われたことも重要だ。

 日本もまだ続く新型コロナウイルス対策のために、過去1年半あまりの検証、現在進行している対策、今後の対策についてプロセスの透明化をはかっていく必要がある。

■シリーズ「医療制度から考える新型コロナ危機」(2020年)

感染者14万人でも「医療崩壊」しないドイツ 感染者1万人で「医療危機」の日本

CAも活用 イギリスの大胆な新型コロナ対策 日本も見習うべきだ

感染者の1割死亡のスペイン 医学生・看護学生、退職者を動員し出口探る

イタリアが「医療崩壊」を招いた三つの遠因が見えてきた

■シリーズ「新型コロナ・キーパーソンに聞く」(2021年)

コロナのゴールライン 死亡者数が季節性インフルエンザ下回るのが目安【国立国際医療研究センター 大曲貴夫・国際感染症センター長】

コロナで見えた医療の弱点 普遍性の高い基本的な感染対策が普及していなかった【国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター・感染症学 矢野晴美教授】

在宅介護から施設入所へ コロナ禍の巣ごもりで見えてきた介護現場の課題【アゼリーグループ 来栖宏二代表】

コロナ禍で進む学校の二極化 オンライン授業の遠い道のり【横浜市立日枝小学校 住田昌治校長】

震災経験が自治体・医師会・医大の融和をもたらした 新型コロナの「福島モデル」【星総合病院理事長、福島県医師会副会長 星北斗氏】

「生命の危機が遠のいてもそこはゴールではない」 新型コロナ対策のロードマップ【文京区長、東京都23区の特別区長会副会長 成澤廣修氏】

「病気の怖さ」と「社会的に糾弾される怖さ」 バランスが変わった新型コロナ【元厚生労働省結核感染症課長、DeNA・CMO 三宅邦明氏】

「ここが正念場」という言葉の落とし穴 命か経済かの二者択一は正しいのか【元東京都福祉保健局技監、東京都結核予防会理事長 桜山豊夫氏】

五輪、ワクチン、自粛で怒りの炎が燃えさかる 「正義感が攻撃性を正当化してしまう危険性」【横浜市立大学医学部看護学科講師 田辺有理子氏】

コロナ対応・医療政策で都道府県の成績評価 コロナ後に訪れる医療の抜本改革【慶応義塾大学名誉教授 池上直己氏】

「最善は変わり続ける」ことを前提にして対策を考えることが重要【慶応義塾大学医学部教授 宮田裕章氏】