菅義偉首相の退陣表明以降の政局で見えてきた安倍前首相の影響力をどう抑え込むか
2021年09月29日
自民党は危機の時代のリーダーに岸田文雄氏(64)を選んだ。臨時国会での首相指名を経て、岸田政権が発足する。
新型コロナウイルス対策をはじめ、経済の再生、米中対立のもとでの外交・安全保障など数々の難題が待ち受けるなかでスタートする岸田政権だが、なんといっても最大の課題は、菅義偉首相の退陣表明以降の政局で見えてきた安倍晋三前首相の影響力をどう抑え込むか。つまり、「安倍政治」と決別できるかである。
安倍政治は、これを継承した菅政権とともに、アベノミクスを展開する一方で、国会での説明責任を果たさず、多くの不祥事も生み、コロナ対策で行き詰った。目前に迫る衆院の解散・総選挙でも、安倍政治とどう向き合うのかが大きな争点になるのは必至だ。そこでつまずけば、岸田政権は短命に終わるだろう。
岸田氏は、9月29日に行われた総裁選の第1回投票で国会議員票は146票。河野太郎規制改革担当相(86票)、高市早苗前総務相(114票)、野田聖子幹事長代行(34票)を引き離した。党員投票では、岸田氏は110票で、河野氏(169票)には及ばなかったが、高市氏(74票)、野田氏(29票)を上回った。決選投票では、岸田氏が257票を獲得し、170票の河野氏を抑えた。
岸田氏が率いる宏池会の出身者が政権を担うのは、宮澤喜一政権(1991~93年)以来、28年ぶりである。「首相に最も近い」と言われた加藤紘一氏は、森喜朗政権に対抗した「加藤の乱」で挫折。河野洋平、谷垣禎一両氏は自民党総裁には就いたが、首相には届かなかった。
池田勇人元首相が1957年に創設した宏池会は「軽武装、経済重視」を掲げ、自民党内のハト派・リベラル派を結集してきた。ただ、「軽武装」は日本が東西冷戦の時代に米国の庇護下にあったために維持できた政策だ。
冷戦が幕を閉じ、米国が世界の警察官役を担えなくなった今、果たして「軽武装」を貫けるのか。米軍の展開を補うための防衛協力をどこまで拡大するのか。冷戦後の30年余、問われ続けてきたこの課題に宏池会も、自民党も明確な答えを見出せていない。
政治、財界、官僚が三位一体となって進めてきた「経済重視」路線も変質した。グローバル化が進み、日本企業は海外に進出、外国企業が日本市場に参入してきた。通商産業省(現経済産業省)が企業を指導し、大蔵省(現財務省)が社会保障や公共事業の予算編成を取り仕切る時代は終わった。そんななか、宏池会の領袖、池田氏や大平正芳元首相、宮沢氏らが打ち出してきた理念・政策にとって代わる新しい体系づくり、いわば「宏池会2.0」が求められている。
だが、岸田政権を取り巻く現実は厳しく、理念・政策の見直しの時間をかける余裕はない。
今回の総裁選で、岸田氏は党員票では河野氏に差をつけられたが、国会議員票を多く集めた。決選投票では、最初の投票で高市氏を推していた安倍氏が岸田氏支持に回ったことで、岸田氏が圧勝。総裁の座をつかんだ。麻生太郎副総理・財務相も、麻生派の河野氏が立候補しながら麻生派全体で河野氏を全面支援する態勢は取らず、麻生氏自身は岸田氏を支持している。安倍・麻生勢力が岸田政権誕生の立役者であることは間違いない。
安倍氏にしてみれば、
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