欧州軽視との批判は的外れ
2021年10月01日
米英豪の新たな安全保障協力の枠組み(AUKUS、※注参照)が公になってメディアでも大きな関心を呼んでいるが、今のところ豪の潜水艦建造の契約を反故にされたフランスの怒りばかりに焦点が当たっている印象が強い。本来もっと大きな戦略的意義を持つはずのこのコンセプトについて現時点で注目すべき点をとりあえずまとめてみたい。
※注:オーストラリア(Australia=A)、英国(United Kingdom=UK)、米国(the United States of America=US)をつなげたもの
まず仏豪間の潜水艦をめぐる問題である。確かにAUKUSの発表で不意を突かれ、7兆円に及ぶ大型ビジネス契約を潰された仏政府の怒りは理解できるし、事前の根回しが十分にされていたとは思えない。
だが、豪にとって史上最大規模の政府調達であるこの契約には三つの重要な条件があった。ひとつは老朽化している現在のコリンズ型潜水艦隊の退役に間に合う新型艦の納期のタイミング、第二に潜水艦建造に当たってその大半が技術移転を受けながら豪州国内で生産されること、第三に将来予測される中国のさらなる海軍力の強化に対応しうる性能、である
2015〜16年にこの三条件をめぐり日仏間で熾烈な競争があったことは記憶に新しい。その詳細を述べることは本稿の目的ではないが、契約を勝ち取った仏の政府系企業が豪政府の当初の期待に応えていたとは到底言えないのは事実である。
そもそも原子力潜水艦の設計を通常型に変更する、という前例のないプランである上に、それほど高いとは言えない豪州国内企業の造船技術を知りながら、技術移転・国内生産という高いハードルを越えられると、必ずしも確かな根拠なしに約束していた可能性が否定できない。納期についても当初の予定をはるかに上回ることが確実になって、旧型のコリンズ艦を一部改修して使い続けざるを得ないとの話が大っぴらに報じられていた。筆者が日本大使としてキャンベラに駐在していた間にも、既に官民問わず安全保障関係の有識者の間では仏企業の対応に対する不満が声高に語られていた。違約金を払っても契約を解除して別のオプションを追求すべきだという意見も公開のシンポジウムで堂々と開陳されていたのである。今回の豪の原潜取得は大胆な方向転換であることは間違いないが、いきなり天から降ってきたトランプ流のサプライズではない。
またAUKUSの意義は豪の潜水艦調達のみでないことも言うまでもない。
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