メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

再論・インターネット投票“i-voting”

新たなパンデミックを想定すると、電子投票制度の整備は必然だ

塩原俊彦 高知大学准教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威で、療養者数が10万人を超えるなかで、衆議院選を迎えそうな情勢にある(下図を参照)。本当は、どこにいてもインターネット経由でオンラインによる投票ができれば、療養者の投票がしやすくなり、投票者が増えるだろう。しかし、実際には、郵便投票でさえ日本ではそう簡単にできるわけではない。

COVID-19療養者数の推移拡大図 官邸が公表するCOVID-19療養者数の推移
(出所)https://corona.go.jp/dashboard/

 実は、筆者は、2020年3月30日付で、このサイトに拙稿「スマートフォンによる電子投票は実現しないのか:世界の潮流に遅れた日本 テクノフォビアを打ち倒せ」を公表したことがある。この論考を踏まえたうえで、最近の世界の電子投票への取り組みを紹介しながら、日本も一刻も早く電子投票化に動き出すべきであると論じたい。新たなパンデミックを想定すると、電子投票制度の整備は必然であると思われるからである。

電子投票をめぐる基礎知識

 まずは、電子投票を議論するために、基礎知識を身につけてほしい。そのためには、47カ国が加盟する欧州評議会が2020年3月に公表した報告書「選挙におけるデジタルテクノロジー」が参考になる。欧州評議会は、投票と集計に使用されるデジタル技術の規制について先駆的な取り組みを行っており、2004年に最初の勧告を採択した。その後、勧告は2017年の欧州評議会閣僚委員会の勧告(CM/Rec(2017)5)に置き換えられ、欧州選挙制度の原則を、電子投票システムの要件にどのように変換するかについて指針を示す唯一の国際文書となっている。その原則とは、普遍的、平等、自由、秘密などである。

 選挙に関連するデジタル化されたデータには、有権者名簿、候補者名簿、電子形式で入力された結果などがある。デジタル化されたプロセスには、電子登録、有権者の電子識別、投票所やインターネット上の投票機での電子投票、電子集計(結果の登録や計算、場合によっては議席の割り当てにも使用されるソフトウェア)、統計目的で使用されるソフトウェア、予備結果や最終結果の電子送信(例えば、投票所から中央装置への送信)などがある。

1)	thodonal88/shutterstock.com拡大thodonal88/shutterstock.com

 そのうえで、電子投票は、投票の電子化と紙の投票の電子化からなるとみなすことができる。投票の電子化には、投票所での電子投票機(EVM)による投票と、管理されていない環境でのインターネットを介した投票(i-voting)の両方が含まれている。ほかにも、光学スキャナを使って紙の投票用紙をデジタル化し、集計を行うe-countingといった電子化もある。

 電子投票というとき、EVMとi-votingの両方があるために、話がややこしくなる。報告書では、欧州評議会加盟国の個別の状況について、つぎのように紹介している。

 「ベルギー(すべての選挙と国民投票にEVMを使用)、ブルガリア(国政選挙とEU選挙、ブルガリア共和国の大統領と副大統領の選挙にのみEVMを使用し、国民投票には使用しない)、エストニア(すべての国政選挙にi-votingを使用するが、異なる技術的ソリューションを使用する地方の住民投票には使用しない)などがある。フィンランドのオーランド自治区(i-voting、最近停止中)、フランス(66のコミューンでEVMを導入し、国会議員選挙と領事選挙ではフランス人駐在員にi-votingを導入、地方レベルでは地方議会がi-votingを利用して投票できる)、アイスランドとノルウェー(地方の住民投票のみi-votingを導入)、ロシア連邦(国政選挙と地方選挙でEVMを導入)、スイス(連邦、カントン、コミューンの投票と選挙でi-votingを導入、現在停止中)。」

ドイツやオランダの足踏み

 もう一つの重大な事実は、ドイツやオランダなどで、利用開始となったEVMが停止され、それが電子投票全般のこれらの国への導入遅滞につながっているという点である。

 ドイツでは、1998年にオランダのNEDAP製の電子投票機がケルンで初めて試験的に導入された。この実験は成功し、1年後の欧州議会選挙でもケルンはすべて電子投票機を使用した。すぐに他の都市も追随し、2005年の総選挙では200万人近くのドイツ人有権者がこのNEDAP製の機械を使って投票したという。

 2005年の選挙後、2人の有権者が、選挙監視委員会への提訴に失敗した後、ドイツ憲法裁判所に提訴した。この訴訟では、電子投票機の使用が違憲であり、投票機のハッキングが可能であるため、2005年の選挙結果は信頼できないと主張した。

 2008年9月の判決では、選挙の公共性の原則は、民主主義、共和国、法の支配を支持する憲法の基本的な決定に起因するもので、選挙のすべての重要な段階は公衆の監視の対象となる可能性があると規定している。ゆえに、有権者の投票を電子的に記録し、選挙結果を電子的に確認する投票機の使用は、投票と選挙結果の確認という本質的な手順を、専門的な知識がなくても確実に検証できる場合にのみ、憲法上の要件を満たす。

 ところが、「有権者自身が、コンピュータ技術の詳細な知識がなくても、自分の投じた票が、開票の基礎として、あるいは少なくとも後の再集計の基礎として、混じりけのない方法で記録されているかどうかを理解できなければならない」という条件を投票機は満たしていない。すなわち、連邦投票機法は、選挙の公共性の原則を侵害しているため違憲とされた。

 この判決の結果、ドイツでは投票機の使用が停止され、i-votingを含めた電子投票への移行が難しい情勢がつづいている。オーストリアでも、選挙管理委員が技術的な支援を受けずに任務を遂行できるような詳細な規定が投票規制にないために、既存の規定自体が憲法に違反していると考えられた。にもかかわらず、同規制は更新されなかったため、i-votingを想定することができない状況がつづいている。

 一方、オランダでは、1965年に国会で電子法が可決された。その後、投票・集計に電子技術が利用されるようになる。だが、1998年の議会選挙で議席を失ったマイナー政党が投票・集計技術への批判を表明するようになる。さらに、2006年3月に行われたアムステルダム市議会議員選挙で、初めて電子投票が導入されて以降、投票機のセキュリティへの疑問などが広がる。電子投票機の独立性が問題化し、2007年9月、国務長官は記者会見を開き、1997年に制定された「投票機の承認に関する規制」を撤回するに至る。同年10月1日、オランダの国家裁判所は、すべての電子投票機の認証を取り消す決定を下す。そのため、国内では電子投票機は利用できなくなった。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

塩原俊彦の記事

もっと見る