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「投票日だけ主権者」の私たち~イニシアティブ制度による政治参加を(上)

国会の多数派がすべてを牛耳る政治から、市民政治への転換を

今井 一 ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

政治の場から外される主権者

 国政選挙で判断、選択を誤ると、行政府や立法府が愚かなこと、汚いことをしても、私たちは次の選挙の投票日が来るまでは観客席に追いやられ、閣僚や議員に対して主権者として実効性のある働きかけができない。

 「アベノマスクなんて馬鹿すぎる」「加計、森友や桜の真相を明らかにしろ」「3.11から学び、原発は稼働するな」などとSNSや集会でヤジを飛ばしたり怒号を浴びせたりしたところで、権力者はその声を汲みはしないのだ。

 そして、たぎらせていた彼らへの怒りは次の選挙までの間に半減し、たいていの人は不信感を募らせながらも「仕方ない」とあきらめる。私たちは戦後70年余り、そういった営みを繰り返してきた。

 政治学者で東京大学教授だった辻清明は、「60年安保」の直後に書き上げた著書『政治を考える指標』(岩波書店刊)でこう述べている。

 「たとえ、個々の政策や法律に対して激しい批判や反対運動がおこなわれても、ひとたび国の方針として決まると、国民のなかにあきらめに似た無力感が漂い、一種の挫折感に支配されやすい傾向がみられる……ぎゃくにこうした精神状況が予見されるからこそ、政治指導者の側は、国家の安全とか秩序の維持とかに名を借りて、無理なことでも強行し、権力の上にあぐらをかく」

 この本の刊行からすでに61年が経過したが、こうした傾向は弱まるどころか強固に常態化している。「コロナ禍での開催反対」という7割を超す世論を押し切って開催された東京オリンピックだが、開催後、反対していた人の半数近くが「開催してよかった」に心変わりした事実は、辻氏が指摘したことの典型例といえる。

 事は五輪開催に限らない。着々と進む各地の原発再稼働も同様の傾向、流れになりつつある。今後、政権を担うのが自民・公明であれ立憲・共産であれ、国政が代表民主制一本で運営される限り「無力感が漂い、挫折感に支配される」現象はこの先も続くことになるだろう。

衆愚観に覆われた主張に反駁せよ

 ノーム・チョムスキーは、自著『メディア・コントロール』(集英社刊/鈴木主税訳)の[観客民主主義]の項でこのように語っている(括弧内は筆者による付記)。

 「民主主義社会における彼ら(大多数の国民のこと)の役割は、リップマンの言葉を借りれば、『観客』になることであって、行動に参加することではない。しかし彼らの役割をそれだけに限るわけにもいかない。何しろ、ここは民主主義社会なのだ」

 「そこでときどき、彼らは特別階級の誰かに支持を表明することを許される。『私たちはこの人をリーダーにしたい』、『あの人をリーダーにしたい』というような発言をする機会も与えられるのだ。何しろここは民主主義社会で、全体主義国家ではないからだ。これを選挙という。
だが、いったん特別階級の誰かに支持を表明したら、あとはまた観客に戻って彼らの行動を傍観する。『とまどえる群れ』は参加者とは見なされていない。……この背景には一つの論理がある。至上の道徳原則さえある。一般市民の大部分は愚かで何も理解できないということである」

 事の本質を衝くとはこういう言説だ。「国民発議・国民拒否」といったイニシアティブ制度を備えない代表民主制のみの政治参加としての「選挙」というものを、チョムスキーはこう捉えている。

 前述の「棄権しないで投票に行こう」と呼びかけるキャスターや主権者教育を担う教員は、彼の考えに賛同できなくとも理解したほうがいい。

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 念のために言っておくが、チョムスキーは「観客民主主義」の現実を述べているだけで、市民は何も理解できないから政治的決定の参加者にしてはならないなどと考えてはいない。

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筆者

今井 一

今井 一(いまい・はじめ) ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 1991年以降、ソ連、ロシア、スイス、フランス、イギリスなどで国民投票の取材を重ね、国内では新潟県巻町、名護市、徳島市など各地で実施された住民投票を精力的に取材。2006年~07年には、衆参各院の憲法調査特別委員会に参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールについて陳述する。著書に『CZEŚĆ!(チェシチ)──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)、『住民投票』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投票』(集英社)、『国民投票の総て』、『住民投票の総て』(ともに[国民投票/住民投票]情報室)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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