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変われない自民党と弱い野党。この構造的問題を政治は解決できるのか?

菅首相退陣、自民党総裁選から透けてみえる官邸・自民党の劣化とそれを許した野党の罪

野中尚人 学習院大学法学部教授

日本政治の最大のアキレス腱とは

 ここにこそ、現在の日本政治をめぐる最大のアキレス腱がある。すなわち、トップポジションに就き、強い権力を一手に握ったリーダーが、責任を負うシステムが不在なのである。

 本来、権力が強ければ強いほど、政治責任も大きくなる。また、重要な政策について重大な政治決断をするには、事前に十分に説明することも不可欠になる。さらに、選択し実行した政策の結果については、たとえ本人に直接的な失敗の原因がない場合でも、その責任を引き受ける覚悟がなければならない。トップリーダーの政治責任とはそういうものだ。

 仮に、強い権力を授けられたトップリーダーがこれを無視するならば、独裁に堕してしまい、民主主義の根本規範に悖(もと)ることになる。安倍政治の最大の問題でもあったこの政治責任の欠落は、残念ながら菅政権にも持ち込まれ、結局のところ、政治不信の「核」となってしまった。

官邸主導が抱える二つの問題

拡大首相官邸=2021年7月17日、東京都千代田区永田町、朝日新聞社ヘリから

 こうした状況は、近年強められてきた官邸主導の政治とも大いに関連している。官邸主導体制は、1990年代以来の種々の法改正によって構築されたトップダウン型の仕組みである。官邸の主がリーダーとしての自覚と能力を持っていれば、政治指導のための重要なツールとなる。しかし、そこには問題も垣間見える。

 問題の一つは、官僚との関係において官邸が暴走しがちだという点である。

 官僚によるトップリーダーへの「忖度」は、それが適切なものであれば、スムーズな政治主導に必要な面もある。しかし、安倍・菅政権では官邸の力が強すぎて、明らかに極端で不健全な忖度を強いる形になっていた。そこまでくると、本来具申されるべき検討課題や論点は消し去られてしまう。官僚機構には、社会の全般的な公正さや技術的な適切さを担う役割があるが、それが極端に剥がれ落ちてしまうのである。

 要するに、政治リーダーと補佐すべき官僚との間の適切なバランスに基づく回路が、完全に遮断されてしまったのだ。人事権による官邸の官僚コントロールが極端になった結果であり、明らかに修正の必要がある。

 菅政権での官邸主導のもう一つの問題は、側近集団の構成に長期的な視野に基づく十分な目配りが出来なかった結果、必要な人材を活用する態勢がとれなかったことである。

 本来、官邸は与えられた強い権限を活用して人材を広く登用し、衆知を結集することで、より良い政策選択を行うことが期待されている。しかし、この間、官僚のみならず、民間や学会からの専門人材の登用はうまくいったのだろうか。

 トップリーダーが短期的な視野から独善的になってしまえば、有為の人材は集まらず、歪んだいびつな決定に陥る懸念がでてくる。菅政権は、この点でも、安倍政権の大きな負の遺産を清算できないままに終わったように見える。

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筆者

野中尚人

野中尚人(のなか・なおと) 学習院大学法学部教授

1958年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際関係論博士課程を修了(1993年)。博士(学術)。 静岡県立大学国際関係学部を経て1995年より学習院大学法学部。1996年より現職。2019年4月から21年3月まで同法学部長。専門は比較政治。自民党を中心とした政党論、官僚人事システムなどについての実証的な比較を行ってきた。近年は特に議院内閣制論、比較議会論から見た国会についての研究を進めている。最近は、最新のベイズ統計理論やOCR技術、プログラミングを活用した自然言語処理による研究にも取り組んでいる。 著書に『さらばガラパゴス政治』(2013年)、『21世紀デモクラシーの課題』(2015年・共著)、『ゼミナール現代日本政治』(2011年・共著)、『政策会議と討論なき国会』(2016年、共著)、『民主政とポピュリズム』(2018年、共著)、『比較議院内閣制論』(2019年、共著)、『平成史講義』(2019年、共著)など。“Transformation of Domestic Politics: Abe’s Durable Legacy?”in R. Durraric and G. Delamotte eds. The Abe legacy: How Japan has been shaped by Abe Shinzo, Lexington Books, forthcoming.

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです