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安倍・菅政権を継承する岸田首相と「公助」重視の枝野代表~国会演説で見えた国家方針

首相は「成長なくして分配なし」、枝野氏は「分配なくして成長なし」

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

 菅義偉首相に代わり、2021年10月4日に新たな内閣総理大臣として就任した岸田文雄首相(自由民主党総裁)は、10月8日に国会で所信表明演説を行った。拙稿〈菅首相と枝野代表が国会で示した国家方針を比較する〉で解説したとおり、就任直後の所信表明演説は「国家方針を示す」ものとなる。

 一方、立憲民主党の枝野幸男代表は、10月11日に代表質問を行った。野党第一党の党首による代表質問も、質問という形式を取りつつ、就任直後の場合は「国家方針を示す」演説となる。枝野代表は、昨年10月に新しい立憲民主党の代表として選出され、同月の国会で「国家方針を示す」演説を行った。本来であれば、枝野代表は既に国家方針を示しており、今回の演説は、文字どおりの質問を行っても構わないところであったが、国家方針に基づく具体的な政策を示すことに重点が置かれていた。

 つまり、岸田演説は「自民党を中心とする与党ブロックの国家方針」を示し、枝野演説は「立憲民主党を中心とする野党ブロックの国家方針」を示すものとなった。10月31日に投開票が予定されている総選挙を前に、有権者に二つの国家方針の選択肢が示されたわけである。(以下、岸田演説は「朝日新聞」10月9日付朝刊、枝野演説は立憲民主党ホームページから引用した)

アベノミクスを継承して「新しい資本主義」を目指す岸田首相

 岸田首相は、目指す社会ビジョンとして「新しい資本主義」を掲げた。「私が目指すのは、新しい資本主義です。我が国の未来を切り拓くための新しい経済社会のビジョンを示していきます」と述べている。

衆院本会議場で、所信表明演説をする岸田文雄首相=10月8日午後2時3分、国会内、角野貴之撮影 拡大衆院本会議場で、所信表明演説をする岸田文雄首相=10月8日午後2時3分、国会内、角野貴之撮影

 この「新しい資本主義」は「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」を「コンセプト」にし、「成長戦略」と「分配戦略」を「車の両輪」にして実現するという。具体的に読み解いていこう。

 まず「成長と分配の好循環」とは「分配なくして次の成長なし」との意味である。「成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて次の成長が実現」するという考え方に基づき、「成長も、分配も」の二兎を実現するため「あらゆる政策を総動員」すると述べている。

 ポイントは「分配なくして成長なし」でなく、「次の成長なし」と「次の」という言葉が入っていることである。まず、経済を「成長」させ、その「果実」が生まれたら、「しっかりと分配」し、「次の成長」が実現するという意味である。

 それでは、分配の前、起点となる「成長」をどうやって実現するのか。それがなければ、分配もないというのが、岸田首相の論理である。

 岸田首相は、起点の「成長」をアベノミクスの継承によって実現すると述べている。「最大の目標であるデフレからの脱却を成し遂げます。そして、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進に努めます」と述べてから、「その上で、私が目指すのは、新しい資本主義の実現です」と述べている。つまり「アベノミクス継承による経済成長」→「分配戦略」→「成長戦略」という順番が、岸田首相のいう「成長と分配の好循環」であり、「分配なくして次の成長なし」ということである。

 アベノミクス継承による「成長」の次となる「分配戦略」は、労働分配率の向上、子育て支援の強化、ケア労働者の賃金上昇、分配機能を担う財政の単年度主義の弊害是正の4つからなる。具体的には、企業の情報開示の充実、下請取引への監督強化、賃上げ企業への税制支援、大学学費の「出世払い」化、公的価格評価検討委員会の設置等の政策を実施する。一方、財政単年度主義の弊害是正については、具体策を示していない。

 「成長戦略」は、科学技術政策の強化、地方のデジタル化の促進、国内生産機能の強化、社会保障の充実の4つからなる。具体的には、研究大学を形成するための10兆円規模のファンド創設、企業の研究開発を促す税制、クリーンエネルギー戦略の策定、地方でのデジタルインフラの整備を進める「デジタル田園都市国家構想」の推進、サプライチェーンの国内化の促進、働き方に中立的な社会保障や全世代型社会保障制度の構築等である。

 一方で、岸田首相のいう「新しい資本主義」がどのようなビジョンなのか、説明はない。「我々が子供の頃夢見た、わくわくする未来社会を創ろう」ではないかと呼びかけ、「新しい資本主義実現会議」を設置し、「ビジョンの具体化を進め」ると述べている。

 要するに、これから「新しい資本主義」というビジョンを検討すると表明したのである。行先を指し示すことなく、アベノミクス継承等の移動手段だけ明示し、「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」と結んでいる。岸田首相は、どこへ向かおうとしているのか。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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