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安倍・菅政権を継承する岸田首相と「公助」重視の枝野代表~国会演説で見えた国家方針

首相は「成長なくして分配なし」、枝野氏は「分配なくして成長なし」

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

枝野代表と野党ブロックの国家方針

 枝野代表は、昨年10月の国会演説に引き続き、公助を優先し、支え合いを重視する国家方針に転換すると再び示した。枝野代表は「競争ばかりをあおり、「自己責任」を強調しすぎた、これまでの政治」「誰も取り残されない社会をつくる」「命と暮らしを最優先する政治へ。イザというときに頼りなる政治へ。そして支え合い、分かち合う社会へ」と述べた。

 経済政策については「分配なくして成長なし」と、先に「分配」することを明確にした。枝野演説は「公的な支え合いの強化によって将来の不安を小さくし、格差を縮小して貧困を減らすことで、消費の拡大による経済成長を実現」するとしている。

 つまり、岸田首相の「先に経済成長」という方針と、枝野代表の「先に分配」という方針が、真っ向から対立するかたちになった。実際、枝野代表の「適正な分配が機能せず、将来不安が広がることと相まって成長を阻害していることが最大の問題」であるので「好循環の出発点は適正な分配にある」のではないかという質問に対し、岸田首相は「まず成長を目指すことが極めて重要」「成長なくして分配なし」「成長なくて分配できるとは思えません」と答弁した。

衆院本会議で、代表質問をする立憲民主党の枝野幸男代表=10月11日、上田幸一撮影 拡大衆院本会議で、代表質問をする立憲民主党の枝野幸男代表=10月11日、上田幸一撮影

 枝野演説で昨年と異なるのは、国家方針を実現するためのより具体的な政策を示したことである。例えば「命と暮らしを守る上で欠かせない基礎的なサービス、いわゆるベーシック・サービス」を充実させるため、それらの担い手について「原則として正規雇用とし、例えば、保育士については当面月額5万円の賃金引き上げを目指す」と述べ、最低賃金については「中小・小規模事業者を中心に公的助成をしながら、時給1,500円を目標」にすると述べた。

 有権者はそれにより、現在の岸田政権の国家方針・政策と、もう一つの枝野政権の国家方針・政策を同じレベルで比較し、選べるようになった。岸田演説と枝野演説によって、総選挙で投票先を考える上で、判断材料が同レベルで示されたことを歓迎したい。

岸田首相が逃れられない安倍・菅政権の評価

 これまで説明した国家方針の選択とは別に、今回の総選挙には、前回の2017年総選挙から今回の総選挙までの間の「自公政権の評価」という争点もある。これは、あらゆる国政選挙について回る、固有の争点といってもいい。むしろ、立憲民主党を中心とする野党ブロックが立ててきた国家方針の選択という争点の方が稀である。

 岸田首相は、安倍政権の約7年8か月の間、一貫して政権の枢要ポストを占め続けた。最初の4年7か月は外務大臣を務め、その後は自民党の政策責任者である政調会長を務めた。

 そのため、岸田首相は直接的に安倍政権の評価について責任を負う主体であり、自民党総裁として間接的に菅政権の評価について責任を負う。当然のことながら、この責任は「説明責任」のことである。安倍・菅政権の功罪について、総選挙を通じて説明する責任が岸田首相にある。

 特に、アベノマスク等のコロナ対策、桜を見る会問題、加計学園問題、森友学園問題等、安倍・菅政権の諸問題については、岸田首相が説明責任を果たさなければならない。あたかも第三者のような姿勢は許されるものでなく、当事者として対応することが求められる。

 岸田演説には、安倍・菅政権の諸問題はもちろんのこと、両政権の政策について、一切の反省は示されていない。示されているのは、一貫して両政権の政策や政権運営の姿勢を引き継ぐことである。コロナ対策については「菅前総理の大号令の下、他国に類を見ない速度でワクチン接種が進み、この闘いに勝つための大きな一歩を踏み出せました」という賞賛であり、経済政策については前述したとおり、アベノミクスの継承である。外交政策においても、両政権の継承を示している。両政権の不祥事等は、間接的な表現を含めても、まったく言及されていない。

 つまり、岸田政権は、名実ともに安倍・菅政権を継承する政権であり、国家方針だけでなく、政権運営についても同じである。異なるのはキーワードだけであり、それらは内実の乏しい空虚なスローガンに過ぎない。

 そのようなことはないと思うが、万が一、岸田首相が安倍・菅政権の評価から逃れようとするならば、無責任の極みといわざるを得ない。そして、無責任な行いは、岸田首相が引き継ぐ、いわゆる保守本流としての宏池会の伝統を汚すことに他ならず、政権担当能力の欠如を意味する。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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