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安倍・菅政権を継承する岸田首相と「公助」重視の枝野代表~国会演説で見えた国家方針

首相は「成長なくして分配なし」、枝野氏は「分配なくして成長なし」

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

総選挙の争点は、国家方針の選択と安倍・菅政権の評価の2つ

 以上のとおり、今回の総選挙の争点は、国家方針を選択することと、安倍・菅政権を評価することの2つある。有権者の示す選択は、今後の国政に大きな影響を与える。

 そこで、国家方針の選択という争点について、改めて整理しよう。有権者の前には、2つの選択肢が示されている。

 《自民党を中心とする与党ブロックの国家方針》経済的価値を最大化するため、個人重視・支え合いを定める憲法を改正し、国家重視・自己責任を名実ともに追求する。

 《立憲民主党を中心とする野党ブロックの国家方針》社会的価値(経済的価値+非経済的価値)を最大化するため、これまでの国家重視・自己責任の政策を改め、個人重視・支え合い(憲法の国家方針)を名実ともに追求する。

 岸田政権は、総裁選での言動等から見て、かつての自民党の国家方針に回帰する、あるいは野党ブロックの国家方針に転換すると思われたが、そうでないことは岸田演説から明らかになった。なお、かつての自民党の国家方針は、以下のとおりである。

《55年体制での自民党の国家方針》非経済的価値に配慮しながらも経済的価値を拡大するため、個人重視・支え合いを憲法(タテマエ)として残しつつ、国家重視・自己責任を政策(ホンネ)として追求する。

 1970年代のニクソンショックとオイルショックをきっかけとした経済変動によって、この国家方針は行き詰まり始め、自民党は徐々に現在の国家方針への転換を図り、2012年末に成立した第二次安倍政権から、完全に舵を切った。岸田首相は、この国家方針への回帰をするかと思わせる言動をしつつ、実際には現在の国家方針を維持すると国会演説で表明した。キーワードという言葉づかいの変化は示したが、内実は基本的に変化していない。

 国際的に見ても、それらのショックから先進工業国は、それまで追っていた経済成長と民主主義発展の二兎を諦め、経済成長の一兎を追い始めた。自由民主主義体制の行き詰まりである。

 アベノミクス検証委員会であいさつする立憲民主党の枝野幸男代表(左)=2021年9月14日午後、国会内、北見英城撮影  拡大 アベノミクス検証委員会であいさつする立憲民主党の枝野幸男代表(左)=2021年9月14日午後、国会内、北見英城撮影

 そして、イギリスやアメリカ等、先進工業国で広く採用されるようになったのが、新自由主義である。経済的価値の最大化、すなわち「カネ儲け」を徹底追求することで、富の総量が増大し、人々が豊かになるという思想である。「カネ儲け」のあらゆる機会を活用することが求められ、それを妨げたり、意欲を減退させたりする社会システムは撤廃されなければならない。それによって、オイルショック等によって停滞するようになった経済が、再び成長すると考えられた。

 要するに、経済的価値の最大化を追求する国家方針は、経済成熟の時代において、新自由主義と表裏一体とならざるを得ないのである。

 また、民主主義の優先順位を下げる国家方針は、必然的に権威主義的な体制を強化していく。国家を利用して「カネ儲け」することは、新自由主義の密教といえる核心部である。実際、加計学園問題に代表されるように、これまでの「規制改革」でも、政策決定の場に近い人物・企業が利益を得ているのではないかと、疑問が抱かれてきた。

 したがって、安倍・菅政権への評価と国家方針の選択は、有権者からしても、論理的にも一体的となる。政権が、経済的価値の最大化を今後も追求すべしと考える有権者は、安倍・菅政権の不祥事について大きな疑問を抱かないだろう。他方、安倍・菅政権の不祥事に疑問を抱く有権者は、非経済的価値を含めた社会的価値の最大化を求めるだろう。

 有権者には、これから投開票日までの期間、安倍・菅政権の評価と未来のビジョンについて、与党ブロックと野党ブロックのどちらに投票するのか、熟慮を願いたい。その際、周囲の人々と語り合ったり、SNSで意見交換したりすることは、とても有意義である。『論座』や新聞等の様々な論稿を読み、多面的に考えることもお勧めしたい。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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