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遺伝子組み換えウイルスによるパンデミックはあり得ない~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第一部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー②

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 臨床医として働きつつ、世界の最新最前線の医学研究論文を渉猟し続けている上昌広・医療ガバナンス研究所理事長。日本のコロナ対策について、その上さんへのインタビューを通じて考える連載企画「コロナ対策徹底批判」。第2回は、前回「ウイルス研究所から流出?動物から人へ? 新型コロナの起源は~上昌広氏に聞く」に続いて、新型コロナウイルスがどこから発生してきたかを考える。

 遺伝子工学の現在の研究レベルから考えて、中国・武漢市にあるウイルス研究所から漏れ出た人工ウイルスが、世界中に伝播した可能性は極めて低い。研究所流出説を主張することは、科学的無知を自ら曝す所業か、何らかの政治的思惑に囚われた行いか、どちらかと同義である。だが、研究所流出説がくすぶるのはなぜなのか。「家畜大国」であるがゆえに、自然由来のウイルスに関する研究が積み上がっている隣国・中国。その中国とどう向き合い、将来のパンデミックにどう備えるべきなのか。上さんの語りはいよいよ佳境へとはいっていく。

拡大上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

遺伝子組み換えウイルスは自然界で広がらない

――2021年3月30日、WHO(世界保健機関)は中国・武漢市で行った現地調査の報告書を発表し、「武漢のウイルス研究所から流出した可能性は極めて低い」と明言しました。そういう報告書が出たにもかかわらず、トランプ政権時代の米CDC(疾病対策センター)所長は「私はまだ武漢の研究所から流出した可能性が高いと思っている」と言い、バイデン政権は報告書の中立性に疑問を呈しています。どう思いますか。

 世界では相手にされていないと思います。こういうことは総合的な知性や判断力が問われる事態なのですが、我々が学んできたウイルス学などの観点から言って、生き物やウイルスを作るというのは本当に難しいことなんです。

 人が遺伝子を導入した生き物がうまくいった事例は、例えば鯛に筋肉をつけて膨らませるとか、遺伝子組み換え食物とか、そのレベルなんです。こういうものは温室栽培している。つまり、自然の中で増えているわけではない。人工的に遺伝子を入れても、自然の環境の中ではその後だめになってしまうんです。

 京都大学大学院農学研究科の木下政人助教は、ゲノム上の特定の遺伝子を改変して働き方を変える「ゲノム編集」技術を応用し、「肉厚マダイ」や短期間で成長する「豊満トラフグ」の開発に挑戦している。すでに量産技術まで確立し、商品化の手前まで来ている。ゲノム編集の魚が海に逃げ出すことを防ぐために、陸上の水槽内での飼育を徹底している。

 前にも言いましたが、アメリカのフロリダ州でマラリアなどの感染症を媒介する蚊を駆除するために、遺伝子を組み換えた蚊を大量に放つんです。イギリスのオキシテックという会社が作っているんですが、成虫前に死んでしまうメスの蚊しか生まないように遺伝子を組み換えています。

 だけど、これがうまくいくとは思えない。以前にブラジルでやった実験では、見事に失敗しています。研究は厳密に行われていますが、こんな蚊をいくら自然にまいたって死ぬと思われています。今の遺伝子組み換えのレベルはこの程度です。

 これも話しましたが、旧ソ連の生物兵器施設から炭疽菌などが漏れた事件があります。生物兵器を作るためにやっていたことが確認されています。今回、仮にこの事例と同じだったと考えたとき、一番引っ掛かるのは、遺伝子組み換えのウイルスが仮に実験室でうまくできたとしても、野生で広まるとは到底考えられないという点なんです。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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