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遺伝子組み換えウイルスによるパンデミックはあり得ない~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第一部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー②

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

遺伝子組み換えのノウハウが少ない中国

――なぜ自然界では広がらないのですか。

 次元が違い過ぎます。遺伝子組み換えは、ようやく産業化され始めたレベルです。例えば鯛の遺伝子を組み替えた魚肉が増えてますよね。だけど、こういう鯛は人工的な養殖池で大切に飼っている。自然に放したらすぐに死んでしまうでしょう。つまり、安定性が低いということなんです。

 とすれば、武漢市のウイルス研究所からウイルスが流出して、世界中に蔓延(まんえん)していると考えるのは、飛躍しすぎです。私たちが学んできた医学の常識と、かけ離れているんですよ。そもそも、中国はゲノム解析のレベルは高いと思うけど、遺伝子組み換えの生物の研究が進んでいると聞いたことがありません。

――基本的な問題なんですが、武漢市の研究所というのはどういう研究所なんですか。

 ウイルスの研究所で、軍の研究機関があります。コロナウイルス研究のメッカと言われています。中国は幾つかの主要なウイルス研究所を持っていますが、その中の一つのようです。ただ、ものすごくレベルが高いとは聞いていません。世界中でそうは思われていないようです。

 遺伝子の組み替えでは、さきほど紹介したようなバイオテクノロジー企業が最先端を走り、中国はまだその域に到達していません。欧米のバイオ企業は、インスリンの組み換えや先ほど言った蚊の遺伝子組み換えはしていますが、遺伝子組み換えウイルスはまだつくれていない。欧米のバイオ企業でも無理なものを中国が作れると考える研究者は、世界にほとんどいないと思います。

――その面から見ても、武漢研究所からの流出説は可能性が極めて低いと?

 専門家の間では相手にされていません。ゲノム・シークエンスやゲノム情報を読む技術、言ってみれば単純作業を大量にやるのは、中国は今すごいんです。文字通り世界最高峰ですが、遺伝子組み換えなどのように、臨床試験や基礎研究を積み重ねていくような技術は、まだノウハウが溜まっていない。こういうことは、そう簡単には追いつかない。

拡大武漢市内の中国科学院武漢ウイルス研究所=2020年5月26日

ウイルスの研究所流出説はトランプの作為

――近年、様々な分野で躍進が著しい中国にしてそうですか。

 そうですね。中国は21世紀に成長が期待される人工知能(AI)とヘルスケアの分野では、急激に成長しています。人工知能では米国の覇権に挑んでいますが、ヘルスケアの方も米国を猛追しています。中国の製薬業界は躍進していると言っていいと思います。

 中国でのコロナウイルスの発生・流行は、中国自体のヘルスケア市場を刺激している。英国『ランセット』や米国『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』など世界有数の医学誌に、中国の医師や研究者が論文を書きまくり、世界の医学界に影響を与え続けた。世界中の製薬企業が中国での臨床開発を加速させており、治験数増加が中国の創薬ノウハウの蓄積に貢献している。中国政府も1990年代から長期的展望の下、製薬産業の育成に取り組んでいる。製薬業の本場である米国東海岸で学んだ中国人留学生、通称「海亀族」が立ち上げた創薬企業は、世界最大の医薬品開発業務受託機関(CRO)に成長した。

 改革開放政策をとるまで、中国には本格的な西洋医学がありませんでした。その段階から始めたので、中国で最大規模の製薬企業であるヒューマンウェル・ヘルスケアやハンルイ医薬でも、日本の協和発酵キリンと同じぐらいの売上高規模です。協和キリンは日本のランキングで10位ですが、逆に言えば、1937年創業の協和化学研究所から始まる協和キリンを、中国の企業は20年足らずで追い抜くとも言えるわけです。

 ただ、さらに逆から言えば、このような中国で、世界の最先端企業にもできない遺伝子組み換えウイルスを開発し、世界中に次々と伝播させられるとは、誰も考えていないということです。研究機関の中で基礎研究はできたとしても、組織立って開発できるような力はまだ全然ないです。

――とすると、研究所流出説は……。

 あれはトランプ(前米大統領)の作為です。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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