花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
インド太平洋地域の戦略的バランスを激変させるAUKUS―対中抑止の同盟網着々
今、英国もドイツも艦船をこの地域に派遣している。それは、この地域で中国の影響力が高まり平和と安全の確保が急務だ、ということもあるが、基本的には、両国が、この地域への影響力を強めたいと考えているからだ。仏豪潜水艦共同開発計画も、フランス側にはそういう狙いがあった。
ところが、この計画が遅々として進まない。既に5年が経過し、所要額も当初見積の340億ユーロを大きく超え560億ユーロにまで膨らんだ。
そうこうする間に、豪中関係が緊迫化、中国は、貿易上のあの手この手で豪州を締め上げようとしている。今や、豪中関係は過去になかったほどの冷却ぶりだ。
他方、米英が配備の支援を申し出た原子力潜水艦は、フランスとの共同開発で目指すディーゼル・電気潜水艦とは戦略的意味合いが全く異なる。
中国から見れば、AUKUS創設は悪夢以外の何物でもなく、その出現により戦略バランスが大きく変化した。中国とすれば、AUKUSのような枠組みは何としても阻止したかったが、結局そうはならなかった。
逆に言えば、米国は、これにより、対中戦略で願ってもないポジションを得たということだ。英国は、デービット・キャメロン首相の時、何かと言えば中国にすり寄っていたが、その後香港、新型コロナ等の問題が起こり、対中関係が急速に悪化、今では、米国との関係を大事にする。そういう英国を巻き込み、それに豪州も加える。
豪州の存在価値は絶大だ。豪州は、中国の長距離ミサイルの射程外に位置する。従って、そこに米国がロテーションで部隊を駐留させることは米国の抑止力にとり大きな意味を持つ。米国としては、できれば南西部のパースにも原子力潜水艦の寄港地を確保したいところだ。更には、インド洋の豪州領であるココス島も中国の動きに目を光らせる上で絶好の地理的条件にある。
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