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法律の改正や廃止を国民が自ら発議し自ら決める~イニシアティブ制度による政治参加を(下)

刑法改正、同性婚、原発……各国の「民主制実践」の取り組み

今井 一 ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

離婚の合法化に異議を唱えた国民拒否

 イタリアではカトリック教会の強い影響を受け、長らくの間、離婚が法的に認められることはなかった。だが、1960年代以降、離婚や人工妊娠中絶の合法化を切望する人々が急速に増え、フェミニズムのグループや社会、共産両党が動いた結果、国会は1970年12月に「婚姻解消の諸々の規律(離婚法)」を制定。離婚をなすための法制度を初めて導入した。また、その翌年には避妊薬ピルの使用が法的に認められ、1978年には「中絶」に関しても合法化された。

 これに反発したのがカトリック教会やキリスト教民主党だった。彼らは離婚法を葬るべく、憲法75条※で認められている「法律廃止を求める権利」を行使。規定の50万筆を超す642,205筆の請求署名を集め、「離婚法を廃止するか否か」(つまり以前のように離婚を非合法とするか否か)を問う国民投票に持ち込んだ(1974年5月13日実施)。

※イタリア共和国憲法 第2節 法律の制定 第75条

50万人以上の有権者あるいは5つ以上の州議会が、法律あるいは法律の効力をもつ行為のすべてまたは一部の廃止を求める場合は、それを決めるために国民投票が実施されると規定し、イニシアティブの権利を認めている。ただし、第2項で「租税及び予算、大赦及び減刑、条約批准」に関する法律については廃止を請求できないとしている。

 【投票結果】設問は「離婚法の廃止に賛成しますか?」

 投票総数  33,023,179(投票率87.72%)

 有効票 32,295,858

 賛成票 13,157,558(40.74%)

 反対票 19,138,300(59.26%)

 教会の信徒に対する強烈な締め付けにもかかわらず「賛成票少数」となり、離婚が再び非合法とはならなかった。ただし、1970年の法律では離婚手続きが極めて煩雑で容易には離婚ができず、法的な手続きを済ませることなく新たなパートナーと暮らし始める人が多かった。それは形の上ではいわゆる不倫関係となり、問題を解決すべく2015年に離婚法が改正され、手続きが比較的容易になった。

原発の建設や稼働に異議を唱える

 イタリア政府は1985年までに原子力発電所を10地点で建設するなど、原子力開発に重点を置いた政策を打ち出したが、1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに「建設不可」となり稼働可能な3基も運転を停止した。

 そして、それに追い打ちをかけるように、環境保護グループが中心となり原発設置自治体への交付金を認める法律の廃止を求める運動を起こした。では、彼らはなぜ原発の建設や運転の禁止を求めずに、交付金の廃止などを求めたのか。

 前述のとおり、イタリアの国民拒否の制度は、既存の法律の「廃止」を求めてその是非を国民投票かける制度になっている。なので、原発建設を禁じる法律の「制定」を求めることはできない。だが、交付金制度などを廃止すれば、自ずと新規の原発建設や稼働は事実上できなくなる。

 こうした流れの中で、原発に関わる件が3つ。刑法、司法に関する件が一つずつ。計5つの問題について1987年11月8、9日の両日に国民投票が行われることになった。ここでは原発に関するものだけを紹介する。

 ➀ 原発立地候補自治体が一定期間に受け入れ見解を表明しない場合にはイタリア政府は地方自治体の承認がなくてもどこの地域にも原発を建設できる権限を定めた現行法を廃止することを望むか?

 ② 同様に、原発や火力発電所などを受け入れる基礎自治体や州にイタリア政府が交付金を供与するという現行法を廃止することを望むか?

 ③ イタリアが国外での原発建設に参加することを認める現行法を廃止することを望むか?

 【投票結果】

 投票率65.12%前後(案件によって投票率が異なる)

 ➀「現行法の廃止=政府の原発建設権限を認めない」

 賛成80.57% 反対19.43%

 ②「現行法の廃止=立地先への交付金の供与を認めない」

 賛成79.71% 反対20.29%

 ③「現行法の廃止=国外での原発建設を認めない」

 賛成71.86% 反対28.14%

 このように、いずれも賛成票が圧倒的多数となり、国民の「脱原発」の意思は、政府にエネルギー政策の転換を迫ることになった。

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筆者

今井 一

今井 一(いまい・はじめ) ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 1991年以降、ソ連、ロシア、スイス、フランス、イギリスなどで国民投票の取材を重ね、国内では新潟県巻町、名護市、徳島市など各地で実施された住民投票を精力的に取材。2006年~07年には、衆参各院の憲法調査特別委員会に参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールについて陳述する。著書に『CZEŚĆ!(チェシチ)──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)、『住民投票』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投票』(集英社)、『国民投票の総て』、『住民投票の総て』(ともに[国民投票/住民投票]情報室)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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