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法律の改正や廃止を国民が自ら発議し自ら決める~イニシアティブ制度による政治参加を(下)

刑法改正、同性婚、原発……各国の「民主制実践」の取り組み

今井 一 ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

再び「原発」がらみでイニシアティブ

 1987年のイニシアティブ成功により、イタリアの原子力計画は大幅に縮小されたものの、深刻なエネルギー不足に陥り、原発を稼働させているスイス、フランスなどから電力を買い入れることになる。そしてイタリアの電気料金は高騰。

 こうした状況の中、政権を握ったシルヴィオ・ベルルスコーニは、「イタリアにおける原子力エネルギーの再活性化促進」を法制化するなど、明確に原発再開を宣言した。そして2009年には、原発立地先を確保するために、政府が自治体の同意を得なくても立地・建設・運転を決定でき、原発受け入れ自治体の市民は「補償」を受けられることを法制化した。つまり、1987年の国民投票で決まったことをすべてひっくり返そうと考えたのだ。

 市民グループ「市民防衛運動」はこうした原発再開の動きに強く反発し、1987年同様、憲法75条で認められた法律廃止を請求する権利を再び行使。2010年5月1日から7月末日までに75万筆の署名を集めた。

 その結果、憲法裁判所は2011年1月、「原発再開」のために国会が制定した複数の法律を廃止するか否かを問う国民投票を、6月中旬までに実施することを命じる判決を下した。

 ところが、その決定の2カ月後に日本で起きた東京福島第1原発の事故により反原発の世論が急速に高まると、ベルルスコーニ政権は負ける可能性が高い国民投票の実施を延期し、確実に勝てる次の機会を探ろうとしていた。だが、イタリア最高裁は「原発再開をなすための諸法の廃止の是非を問う国民投票を、当初の予定通り6月12,13日に実施すべきだ」という判断を示した。

ローマ市内に張り出された反対派のポスター。原発再開を可能にする法律の廃止に賛成するよう呼び掛けている。勝ち目がないと考えた廃止反対派は「投票率50%未満でのイニシアティブ無効」を狙ってボイコット戦術をとったため、ポスター類はなし=筆者提供拡大ローマ市内に張り出された反対派のポスター。原発再開を可能にする法律の廃止に賛成するよう呼び掛けている。勝ち目がないと考えた廃止反対派は「投票率50%未満でのイニシアティブ無効」を狙ってボイコット戦術をとったため、ポスター類はなし=筆者提供

イタリアの選管が公開した投票用紙の見本。投票用紙には、国民投票で何が問われているのかが記されている。[原子力発電の国内での生産を認める新制度の廃止][当該する法律の廃止を望むか/賛成:反対]拡大イタリアの選管が公開した投票用紙の見本。投票用紙には、国民投票で何が問われているのかが記されている。[原子力発電の国内での生産を認める新制度の廃止][当該する法律の廃止を望むか/賛成:反対]

 【投票結果】

 投票率 54.79% (27,624,922票)

 賛 成 94.05% (25,643,652票)

 反 対  5.95%  (1,622,090票)

 結果は予想通り脱原発派の圧勝となった。これを受けてベルススコーニ首相は記者会見を開き「我々は原子力発電とサヨナラすることになった」と発言。彼の政権下で制定した原発再開をなすための諸法はすべて廃止となった。

制度そのものは価値中立

 イタリアでの国民拒否の3つの事例を紹介したが、おそらく、大方の読者は「原発」の事例については肯定的に受け止め、「離婚の非合法化」に関しては否定的にとらえたのではないだろうか。カトリック教会は国民拒否の制度を使って人権を損ねるような運動を起こしたと。信者でない人がそう考えるのはわかるが、だからといって保守派や教会にはこの制度を使わせるなとか、制度自体を否定するなんてことはやめてほしい。

 東京都知事選挙で自分が支持する人物が勝つなら選挙で知事を選ぶことを認めるが、負ける可能性が高いのなら選挙そのものの実施を認めないという考えが間違っているのと同じで、国民拒否や国民発議という制度もあらゆる人が公平に活用できて当たり前なのだ。

 同性婚については、同性婚を認める世界的な流れに危機感を覚えた反対陣営の人々が国民発議や国民拒否の制度を活用する事例がいくつもある。

 例えば、2013年には、クロアチアのカトリック組織が、先手を打つ形で憲法に「婚姻は異性間に限る」という規定を盛り込むことを企て、74万筆の署名を集めて発議に成功。この憲法改正の是非を問う国民投票ではほぼ[2:1]の大差で改正賛成派(つまり同性婚反対派)が勝利した。

 また、最近ではスイスの同性婚反対グループが、昨年可決した同性婚を合法化する法改正案を国民投票にかけて葬り去るべく、請求に必要な5万筆以上の署名を集めて連邦内閣事務局に提出した。国民投票の結果はクロアチアとは逆に、[2:1]で同性婚合法化賛成派が大勝した。

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筆者

今井 一

今井 一(いまい・はじめ) ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 1991年以降、ソ連、ロシア、スイス、フランス、イギリスなどで国民投票の取材を重ね、国内では新潟県巻町、名護市、徳島市など各地で実施された住民投票を精力的に取材。2006年~07年には、衆参各院の憲法調査特別委員会に参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールについて陳述する。著書に『CZEŚĆ!(チェシチ)──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)、『住民投票』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投票』(集英社)、『国民投票の総て』、『住民投票の総て』(ともに[国民投票/住民投票]情報室)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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