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二大政党による政権交代しか道はないのか~令和初の「政権選択選挙」を機に考える

疑似政権交代、連立政権、リーダーの選び方……総裁選・衆院選から浮かぶ数々の論点

御厨貴 松本朋子 曽我豪 吉川真布 野平悠一 吉田貴文

 衆議院が解散され、10月31日の投開票に向けて衆院選が事実上始まりました。自民党総裁選で総裁を菅義偉氏から岸田文雄氏にかえ、支持率低下が止まらなかった菅政権から岸田政権へとバトンタッチする、いわゆる「擬似政権交代」によって衆院選を優位に進めようとする自民党の底意は、野党が求めた国会での予算委員会開催に応じず、短兵急な選挙期日を選んだ点からも明らかです。

 だからこそわれわれ有権者は、与党、野党の実態や戦略、思惑を、限られた時間とはいえしっかり見極め、一票を投じる必要があります。今のような時代の変革期においては、政権を選ぶ選挙である衆院選の結果が、時の政権や政党の浮沈にとどまらず、次の時代の政治体制そのものを規定することがあるので、なおさらです。

 政治について、世代も性別も様々な研究者や記者で議論する「政治衆論2021」。第2回のテーマは目前に迫る衆院選です。4年ぶりにおこなわれる「政権選択選挙」では何が問われようとしているのか。与野党はいかなる態勢で選挙に臨もうとしているのか。この9年間なかった与野党による政権交代が起きる可能性はあるのか。そもそも二大政党制による政権交代は日本の政治になじむのか――。目の前の“政局”を超え、時間軸を長くとった観点から、様々に意見を交わしました。(司会・構成 論座編集部・吉田貴文)

◇今回の議論に参加していただいた方々

御厨貴(みくりや・たかし) 東京大学名誉教授
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1951年生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大教授、政策研究大学院大学教授、東京大学先端科学技術研究センター教授、放送大学教授、青山学院大特任教授を経て現職。政治史学。著書に『政策の統合と権力』『馬場恒吾の面目』『権力の館を歩く』など。
松本朋子(まつもと・ともこ) 東京理科大講師
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1985年生まれ。東京大学法学部卒業。2016年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。名古屋大学特任講師、ニューヨーク大学客員研究教授を経て18年から現職。専攻は実証政治学・実験政治学・政治行動論・政治史。研究成果を海外学術雑誌に掲載。
曽我豪(そが・たけし) 朝日新聞編集委員(政治担当)
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1962年生まれ。東京大学法学部卒業。朝日新聞社に入り、熊本支局、西部本社社会部を経て89年に政治部。首相官邸、自民党、野党、文部省など担当。週刊朝日編集部、月刊誌「論座」副編集長、政治部長、東大客員教授などを歴任。2014年から現職。
吉川真布(よしかわ・まほ) 朝日新聞政治部記者
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1991年生まれ。2015年に朝日新聞社に入り、神戸、岐阜総局を経て2019年に政治部。安倍晋三首相番を担当した後、2020年から立憲民主党など野党を担当。立憲や国民民主党の合流などを取材した。現在は主に立憲の枝野幸男代表を担当している。
野平悠一(のびら・ゆういち) 朝日新聞政治部記者
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1993年生まれ。2015年に朝日新聞社に入り、山口、神戸両総局を経て政治部。安倍晋三首相番や自民党の平成研究会(竹下派)、参議院自民党などを担当。菅義偉政権の発足時から、二階俊博前幹事長が率いる志師会(二階派)を主に取材している。

拡大議論する5人。右上から反時計回りに、御厨貴さん、松本朋子さん、野平悠一さん、吉川真布さん、曽我豪さん(Zoomの画面から)

――「政治衆論2021」の第2回です。今回は19日公示、31日投開票の衆院選を前に、「政権選択選挙」とされる衆院選で今回は何が問われるのか、政権交代のあり方にまで話を広げて議論したいと思います。まず松本朋子さんから「問題提起」をしていただき、前半ではこれに基づいて議論をしたいと思います。

◇松本朋子さんの問題提起◇

 私からは自民党総裁選と衆院選に絡めて、二つの問題提起をさせていただきます。

 まず、自民党総裁選から見えた問題です。確かに今回、総裁選のキャンペーンは大いに盛り上がりました。候補者の政策論争が連日、メディアで配信され、これほどまでに国民の参加を要求する総裁選はあっただろうかという印象をも覚えました。

 しかし総裁選を終え、多くの国民は小さな虚無感を感じているのではないでしょうか。それは岸田総裁への支持不支持とは関係ありません。どんなに盛り上がっても、これは私たちの選挙ではない。最終結果を決めるのは派閥なのだということを、改めて実感したからです。

 総裁を派閥が決めるのは当たり前という議論もあると思います。確かに55年体制のもと、一貫して政権を維持した自民党は、党内の派閥間の切磋琢磨を軸に政治を展開してきたわけですが、注意すべきは、往時と今とでは、派閥のあり方が異なっているということです。

 1994年の選挙制度改革以前、衆議院が中選挙区だった時代、選挙区では複数の派閥の自民党議員が立候補できたので、有権者が派閥を選んで一票を投じることもできました。有権者から支持を得た派閥は勢力を伸長し、得なかった派閥は後退するという制度上の仕組みが担保され、派閥間の“疑似政権交代”であっても、選挙を通じて有権者の意思が反映されたと見ることもできました。

 ところが、選挙区に自民党候補が一人しか立たない現行の小選挙区では、有権者は派閥を選べません。小選挙区のもとでは、いずれ派閥は衰退するとも言われましたが、派閥の残存が顕在化するなか、国民の声を反映する制度的基盤をもたない派閥に、有権者はどうかかわればいいのか。これは総裁選が開かれたからこそ見えた新たな課題とも考えられます。

 二つ目の問題提起は政権交代についてです。小選挙区比例代表制においては、結局のところ、私たちは政党を選ぶしかないわけですが、では、選挙制度改革から幾度も議論されてきた政権交代可能な二大政党制はいつ実現するのか。そもそも、二大政党制という議論の立て方が妥当なのでしょうか。

 平成時代、二大政党制への期待に応えてできた民主党は瓦解しました。民主党政権以降10年弱の度重なる野党の離合集散は、選挙目的に加え、政策の不一致も原因だったということは、専門家の研究からも得られている知見です。野党の分裂が政策的にも不可避であるということを前提に、政権交代のあり方をいま一度問い直す必要があると思います。

 実は1999年以降、自民党は公明党と連立政権を組んでいます。自民党の単独政権ではありません。とすれば、野党の側も連立によって政権交代を実現することも可能なのかもしれません。その際に何が必要なのか。どんな政策を争点にすれば自民党と競えるのかという点も考えたいと思います。

「国民に開かれた総裁選」に潜む矛盾

――問題提起をありがとうございます。自民党の派閥は依然、力を持っている。しかし、現在の選挙制度では有権者は派閥を選ぶことはできない。その点について御厨さん、いかがですか。

御厨 今回の総裁選から想起するのは、小泉純一郎さんが当選した2001年総裁選です。党員が雪崩をうって投票した結果、小泉さんが圧勝、「私は国民に選ばれた」と言いました。しかも、当選直後に「首相公選制を考える懇談会」を立ち上げ、官邸での議論に自ら参加した。そうすることで、自分が国民から選ばれた首相であるというイメージをつくりました。

 これは「ウソ」ですね。彼はあくまで党員に選ばれたわけで、国民に選ばれたわけじゃない。小泉さんにうまくやられました。それが小泉内閣の高支持率につながった。

 今回の自民党総裁選も似ています。国民に開かれた議論をして選ばれたというしつらえにし、総裁が国民から選ばれたように印象づけようとした。実際には党員が選んでいるわけでそれ自体が「ウソ」ですが、今回は最終的に派閥の論理で決めたという点でも「ウソ」を重ねています。

 松本さんの指摘のように、小選挙区制のもとでは、有権者が仮に自民党のこの派閥がいいと思っても、必ずしもその派閥の議員に投票できるわけではない。メディアは、「首相(総裁)公選」に擬した総裁選のそうした矛盾を指摘するべきでした。この国のリーダーの選び方として根の深い問題だと思います。

拡大御厨貴さん

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