疑似政権交代、連立政権、リーダーの選び方……総裁選・衆院選から浮かぶ数々の論点
――自民党担当として総裁選を間近で見た野平さんはどう見ますか。
野平 現場で感じたのは、派閥の力が弱まっているということです。無派閥の高市早苗さんがあれだけの支持を集めたこと。これまで派閥の切り崩しにあって総裁選に出られなかった野田聖子さんが今回は出られたことなど、そう感じる理由は幾つかありますが、実際、今回、派閥が力を発揮したのは岸田派だけだったと思います。私が担当していた二階派も推す候補を一本化せず、自主投票になった。従来の総裁選とは形が変わったと感じています。
総裁選を“首相公選”に擬しているという点は、国民にそういう感じを抱かせたのは確かだと思います。ある議員が「4人の候補が訴える政策で、国民世論の8割をカバーできているのではないか」と高揚して話していました。幅はかなり広い。国民への訴求力の大きさを議員たちも実感していたようです。
ところが、岸田文雄政権が発足し、“ご祝儀”が期待された内閣支持率は、それほど上がっていません。総裁選後、有権者に虚無感が広がったという指摘があたっている気がします。
――野党は今回の総裁選をどう見ていましたか。
吉川 立憲民主党の枝野幸男代表は、総裁選は「準決勝」で衆院選が「決勝戦」と言ってきました。ただ、「準決勝」が終わった今、野党内に「決勝戦で勝負するぞ」という意気込みがあまり感じられないのも事実です。党内では、今回の衆院選ではあくまで自民党との議席差を縮めて政権を狙う野党としての存在感を印象づけ、来夏の参院選でも議席を増やし、次の衆院選で政権交代を狙うという戦略が現実的だとの声も多く聞かれます。
枝野代表は政権交代について、「アメリカのバイデンさんのような勝ち方をするんだ」とよく言います。バイデンが大統領選で勝ったのは、本人に人気があったからではなく、トランプ前大統領が不人気だったからだ。消去法でバイデンが勝利をした。日本でもそういう風に政権交代をするんだと。
皮肉なことに、枝野さんの言う消去法的な政権交代が、自民党内の“疑似政権交代”という形で起きたと見ています。岸田さんに人気があって総裁・総理になったのではなく、菅義偉さんよりはマシな人を選んだ。枝野代表が言う「バイデンさん」がすでに誕生してしまったのではなないでしょうか。
曽我 先日、総裁選のキーマンに会いましたが、彼も「今回は疑似政権交代だ」と言いました。その説明がおもしろい。私はてっきり、大宏池会と清和会の間での“政権交代”という話になると思っていたのですが、そうではなかった。彼はこう言うんです。
自民党は、経済政策ひとつとっても、“岸田流”と“河野流”のふたつがある。今回、岸田が総裁になったが、河野太郎も後詰めで残った。岸田がダメなら、河野がいる。二人とも大宏池会だ。要は、派閥の次元を超えてきている。そもそも今回、派閥の領袖で総裁選に出たのは岸田だけ。派閥の領袖であることが、次の総理を狙う条件でなくなっている。総理総裁への道が多様化している――。
派閥のイメージが変わっていまるんです。今回の総裁選でかつての派閥に近いのは岸田派だけ。古い派閥が残りつつ、同時に新しい派閥への変化も見えてきたというのが、今回の総裁選ではないかと思っています。
――ここまでの議論について、松本さんはいかがですか。
松本 派閥の中身が少しずつ変わっているという話は興味深いです。御厨先生の“首相公選制”という指摘も腑に落ちました。
有権者が国のリーダー選びに関わろうと思えば、たとえば自民党員になるという手はありますが、党員になったところで、党員票は現状では限定的な役割しか果たせていないのです。これは自民党に限ったことではなく、立憲民主党などでも同様に抱える問題です。
しかし、他国に目を向ければ、これは当たり前のことではありません。英国で保守党が党首選の際にどうするかというと、何回か議員たちの間で選挙をしたうえで、最後は党員投票で決めます。米大統領選も党員投票で選ばれる。
衆議院選挙が小選挙区比例代表並列制である以上、リーダーの選び方は与野党ともに見直さなければいけない部分だと痛感しています。