ひとりで苦しむ人が入る労組から、連合会長立候補を模索した理由~鈴木剛・全国ユニオン会長に聞く(上)
何をもって政権と対峙するのか、対立軸はできているか
木下ちがや 政治学者
「ひとりでもだれでもはいれる労働組合」をスローガンに掲げる「全国ユニオン」には、パートや派遣、雇用契約のない人や外国人労働者を含め、たったひとりで長時間労働やハラスメントに苦しんでいる人が入ってきます。
連合の中では主流とはいえない組織ですが、全国ユニオン会長の鈴木剛さんは今回の連合会長選に、立候補を模索しました。どんな思いからだったのか。連合に何を望むのか。政治学者の木下ちがやさんが、鈴木さんにインタビューしました。
連合は非正規、未組織労働者に大胆にアプローチする必要がある。新自由主義社会を転換するために政権交代が必要という大きいテーゼをたてるべきだ。連合が求める経済社会を前面にたてて衆院解散・総選挙に挑んでほしい……。
鈴木さんはそう訴えています。
(論座編集部)
鈴木 剛(すずきたけし)
1968年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。学生時代は無党派学生運動と早大雄弁会に関わる。仕事起こしの協同組合である労働者協同組合センター事業団を経て、2000年代に若年非正規労働に取り組むフリーター全般労働組合に関わる。2008年末の「年越し派遣村」の取り組みを経て、2009年より東京管理職ユニオン専従書記。現在、同執行委員長。全国ユニオン会長。著書に「中高年正社員が危ない」(小学館101新書)、「解雇最前線PIP襲来」(旬報社)、「社員切りに負けない」(自由国民社)。

鈴木剛・全国ユニオン会長=2021年10月19日、東京都新宿区
はじまりは下町の組合。下請け工場の労働者を地域ぐるみで組織
木下 鈴木さんが会長を務める全国ユニオン(全国コミュニティ・ユニオン連合会)とはどのような組合なのでしょうか。一般的に連合は、大企業系と公務員の組合が中心といわれるわけですが、全国ユニオンはそのなかでも異色の存在と言われています。どのような人を組織し、どのような活動をしているのでしょうか。
鈴木 全国ユニオンは連合が結成された1989年よりあとの、2003年に加盟しました。いわゆる「コミュニティ・ユニオン」と呼ばれる労働組合運動のなかでは比較的新しい潮流から構成されています。
1980年代、高度成長が終わり、雇用の非正規化がすすみ、女性のパート労働や外国人労働者が増加していました。当時の労働組合運動が正規の労働者しか組織化の対象を想定しなかったなかで、正規労働者ではなくても誰でも加入できる組合として出発しました。1984年に結成された「江戸川ユニオン」という下町の組合がそのはじまりでした。東京の下町にあるたくさんの下請け工場などパートや零細企業の労働者を、地域ぐるみで組織していったのです。その後コミュニティ・ユニオンの取り組みが広がるなかで、日本人男性正社員中心の従来の労働組合から見離された外国人や女性の労働者が加入してきました。
日本の労働法制は戦争直後の占領下で制定されましたが、そこに規定された権利はアメリカ合衆国とは著しく異なりました。アメリカの場合、組合は職場の過半数代表をとっていないと団体交渉権がありませんが、日本の場合は一人でも団体交渉ができます。ですからコミュニティ運動が広がる前にも、総評時代から合同労組というものがあり、未組織だった膨大な中小企業労働者を、「全国一般運動」というかたちでオルグを配置し組織していました。これもコミュニティ・ユニオン運動の源流といえます。
さらに総評が各都道府県に配置していた、地域単位の組合のセンターである「地区労」があり、これが地域ぐるみで中小企業労働者の組織化を支えていました。ですから私たちのコミュニティ・ユニオン運動はまったく新しくでてきたわけではありません。私が所属する全国ユニオンは、このコミュニティ・ユニオンが発展したものです。