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ひとりで苦しむ人が入る労組から、連合会長立候補を模索した理由~鈴木剛・全国ユニオン会長に聞く(下)

新自由主義社会の転換のため政権交代が必要。連合は大きなテーゼを

木下ちがや 政治学者

 鈴木 剛(すずきたけし)
 1968年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。学生時代は無党派学生運動と早大雄弁会に関わる。仕事起こしの協同組合である労働者協同組合センター事業団を経て、2000年代に若年非正規労働に取り組むフリーター全般労働組合に関わる。2008年末の「年越し派遣村」の取り組みを経て、2009年より東京管理職ユニオン専従書記。現在、同執行委員長。全国ユニオン会長。著書に「中高年正社員が危ない」(小学館101新書)、「解雇最前線PIP襲来」(旬報社)、「社員切りに負けない」(自由国民社)。

労働者の8割が未組織。そこが無法地帯になり、貧困状態に

 木下 新型コロナ危機のもと、新自由主義的な政策や民営化はまずかったという世論が高まりつつあります。リーマンショックのあともそうでしたが、「小さな政府」はうけなくなってきています。他方で、昨年「エッセンシャルワーカー」という言葉が流行はしたのに、言葉だけでなにも対処されていません。結局自民党政権は、GOTOしかり、利権政治の範囲内でしかお金をまわさない。そしてシングルマザーやウーバーイーツのような新産業部門の労働者は置き去りになっている。全国ユニオンはそういうところに切り込んできましたよね。

拡大鈴木剛・全国ユニオン会長=2021年10月19日、東京都新宿区

 鈴木 全国ユニオンは厚生労働省折衝を毎年二回やっていますが、この1年半、新型コロナについては、雇用調整助成金などの取り扱いや範囲を広げるたたかいをかなりやってきました。

 全国ユニオンに加盟する「派遣ユニオン」の事例で言うと、プリンスホテルの交渉があります。コロナ8業種といわれる、ホテルや交通産業などはいま大打撃を受けている。ホテル業界には、「フリーシフト」という形で毎月毎月の出勤が不安定に変更となる労働者が多くいます。そういうひとたちに営繕などをやらせている実態があります。プリンスホテルだけでも3000人が「フリーシフト」で雇われている。こうした人たちは、コロナでシフトが入らなくなり、無収入になった。ところが、基本出勤日が定まってないということで政府の雇用調整助成金の「対象外」ということになる。

 派遣ユニオンに相談に来たプリンスホテルでフリーシフトで働いている方は、18年働き家族を養っています。経営側はこの人たちをまったくの無給で「自宅待機」にしてしまう。解雇もしないから解雇予告手当も受けられない。こんな状態が一年間もつづいていたのをうけて、全国ユニオンは厚労省折衝やプリンスホテル側との団体交渉をやり、厚労省に実質的な労働者と認めさせ、雇用調整助成金を適用させました。

 プリンスホテルは従業員規模が大企業並みで、中小対象の雇用調整助成金はあてはまらないという厄介さもありました。こうした2重3重の困難が新型コロナ下ではあります。

 大企業に働いているとはいっても、実際にはこのように不安定な地位に置かれているわけです。連合の構成産別の労働者を守るのも大事ですが、いまの日本の組合組織率は16%程度です。8割は未組織で、そこが無法地帯になり貧困状態が生まれている。それに対してナショナルセンターがどのように取り組むのかが大切なのではないでしょうか。

劣悪なアマゾンの労働環境、日本でも問題化

 鈴木 逆にウーバーイーツやアマゾンは、コロナ下でものすごい業績をあげている。しかし労働者の条件をよくする気はなく、常に一定数を解雇する人事政策を世界的にとっています。

 アマゾンは2009年のリーマンショックのときに、正当な理由がなく解雇を通告し、職場から締め出す「ロックアウト解雇」を世界各国で相当やっていました。さらにPIP(業務改善計画)という手法をとった。これは売上などの指標ではなく、協調性がないとか消極的といった抽象的な理由で従業員に改善を求めるというものです。通常の業務の他に課題が課されるため長時間労働になり、退職に追い込む手法としても使われます。このようなリストラ手法を編み出したのは、GEといわれていますが、私たちの下にはアマゾンで働く労働者からの相談が多く来ました。

 アマゾンは、毎年6%は辞めさせるというシステムをつくりあげました。2015年にニューヨークタイムスの一面で「アマゾンの非人間的労働」という特集が組まれました。ここにアマゾンの現役、退職者100人の労働者の記事が掲載された。そのなかには癌サバイバーの女性が就労拒否されたり、倉庫の仕事でストップウォッチでトイレの時間をはかっているなどの実態が暴露されました。アメリカ本社が世界中のアマゾンに指示をしてそれをやるので、日本でも同じようにやられる。それが日本でのアマゾン組合の結成のきっかけでした。

拡大アマゾン日本法人の労働組合が所属する東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長(左)らが記者会見を開いて、労働環境の改善を訴えた=2015年11月4日、東京都千代田区

 アマゾン日本法人の弁護士事務所は最初はリベラルなところで、そこは交渉に応じるし協約もむすび、「日本の労働法制はアメリカと違う」などとアメリカ本社を説得もしていた。ですからトラブルはいったんは収まったのです。収まると組織化が止まるのですが、アマゾンはその法律事務所を解約したのです。そして2018年から19年ごろにかけて問題が再燃し、相談数が増えていきました。


筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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