ひとりで苦しむ人が入る労組から、連合会長立候補を模索した理由~鈴木剛・全国ユニオン会長に聞く(下)
新自由主義社会の転換のため政権交代が必要。連合は大きなテーゼを
木下ちがや 政治学者
簡単に切られる派遣労働者、日本では組織化に壁
鈴木 アマゾンはコロナ下での莫大な収益向上で自信をもったわけですが、それに対して世界中の労働組合もアマゾンで働く人たちに戦略的オルグを展開している。
アメリカでもナショナルセンターAFL-CIOに影響力を持つグループ「レイバーノーツ」などがオルグを展開し、保守的なアラバマ州でも組合結成選挙で接戦に持ち込むという成果をあげています。アマゾン社内では宣伝ができないので、組合活動家は会社をでたところにある信号待ちの時に社員にオルグするわけですが、当局はなんと赤信号の時間を短くしてまで阻止しようとしました。さらにはニューヨークの組合のリーダー二人を解雇しました。
いまは世界的な連携ができます。日本のアマゾン組合員たちは英語が堪能なので、SNSを使い、各国の活動家と連絡をとりあっています。ただ、日本の場合はアマゾンの倉庫では多くの現業労働者が派遣会社から派遣されていて、すごく組織化をしにくい。これは連合の課題でもありますが、日本では派遣労働者は派遣元との雇用関係にあるので、簡単に切られてしまう。アメリカやヨーロッパだと組織化に成功し、職場の過半数をとれれば倉庫で働く100人、1000人単位で組織化できます。しかし日本はなかなかうまくいっていなくて、倉庫で働く労働者よりもどちらかといえばホワイトカラーの人が加盟してくる。こうした課題が日本の労働運動にはあります。
非正規が4割なのに労組役員は……。反映できない現場の実態
木下 昨年論座に「新型コロナ危機が開く労働組合と政治のあらたな関係」という論文を書きましたが、日本では労働組合の集団的な声やデータを政治に吸い上げる力が弱い。連合もやってはいるが回路が弱い。そうなるとコロナ下での労働者の状態を政府が把握できない、対処もできないという悲劇を生んでいます。
鈴木 労働組合はボトムアップで、困難な労働者の状況や声やデータを吸い上げていかなければならない。ナショナルセンターも、もう非正規労働者が全労働者の4割を占めているのだから、役員だって4割じゃなきゃいけないはず。そうじゃなければ正確な声は反映されないわけですから。もちろん連合内部の役員構成でそこまでやるのは無理としても、運動のなかでそういう実態を反映させていかなければならないと思います。
社会に発信できない連合に危機感。会長選挙はその好機
木下 連合は転機にあります。政治でも労働界でも注目されています。神津会長は3期6年の長期政権の最後の2年間で、はっきりと「命と暮らしの政治」をうちだし、新自由主義に対抗するという姿勢を強めてきました。さらに神津会長の任期当初の2015年から野党共闘がはじまったものの、2017年には希望の党騒動で民進党が割れてしまいました。しかし2020年にはそれを修復して立憲民主党と国民民主党の合同に貢献しました。神津会長は労働運動が塊になって政治を支え、新自由主義に対抗していくことをはっきり示そうとした。しかし次期会長人事がなかなか決まらなくて、そこで鈴木さんが立候補しようとした。なぜそうしようと思ったのでしょうか。

政策協定締結式で握手する(左から)立憲民主党の枝野幸男代表、連合の神津里季生会長、国民民主党の玉木雄一郎代表=2018年11月30日、千葉県浦安市
鈴木 1989年の連合結成以来、会長選挙の立候補期間を延ばすというのははじめての事態です。これは
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