新自由主義社会の転換のため政権交代が必要。連合は大きなテーゼを
2021年10月20日
鈴木 剛(すずきたけし)
1968年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。学生時代は無党派学生運動と早大雄弁会に関わる。仕事起こしの協同組合である労働者協同組合センター事業団を経て、2000年代に若年非正規労働に取り組むフリーター全般労働組合に関わる。2008年末の「年越し派遣村」の取り組みを経て、2009年より東京管理職ユニオン専従書記。現在、同執行委員長。全国ユニオン会長。著書に「中高年正社員が危ない」(小学館101新書)、「解雇最前線PIP襲来」(旬報社)、「社員切りに負けない」(自由国民社)。
木下 新型コロナ危機のもと、新自由主義的な政策や民営化はまずかったという世論が高まりつつあります。リーマンショックのあともそうでしたが、「小さな政府」はうけなくなってきています。他方で、昨年「エッセンシャルワーカー」という言葉が流行はしたのに、言葉だけでなにも対処されていません。結局自民党政権は、GOTOしかり、利権政治の範囲内でしかお金をまわさない。そしてシングルマザーやウーバーイーツのような新産業部門の労働者は置き去りになっている。全国ユニオンはそういうところに切り込んできましたよね。
鈴木 全国ユニオンは厚生労働省折衝を毎年二回やっていますが、この1年半、新型コロナについては、雇用調整助成金などの取り扱いや範囲を広げるたたかいをかなりやってきました。
全国ユニオンに加盟する「派遣ユニオン」の事例で言うと、プリンスホテルの交渉があります。コロナ8業種といわれる、ホテルや交通産業などはいま大打撃を受けている。ホテル業界には、「フリーシフト」という形で毎月毎月の出勤が不安定に変更となる労働者が多くいます。そういうひとたちに営繕などをやらせている実態があります。プリンスホテルだけでも3000人が「フリーシフト」で雇われている。こうした人たちは、コロナでシフトが入らなくなり、無収入になった。ところが、基本出勤日が定まってないということで政府の雇用調整助成金の「対象外」ということになる。
派遣ユニオンに相談に来たプリンスホテルでフリーシフトで働いている方は、18年働き家族を養っています。経営側はこの人たちをまったくの無給で「自宅待機」にしてしまう。解雇もしないから解雇予告手当も受けられない。こんな状態が一年間もつづいていたのをうけて、全国ユニオンは厚労省折衝やプリンスホテル側との団体交渉をやり、厚労省に実質的な労働者と認めさせ、雇用調整助成金を適用させました。
プリンスホテルは従業員規模が大企業並みで、中小対象の雇用調整助成金はあてはまらないという厄介さもありました。こうした2重3重の困難が新型コロナ下ではあります。
大企業に働いているとはいっても、実際にはこのように不安定な地位に置かれているわけです。連合の構成産別の労働者を守るのも大事ですが、いまの日本の組合組織率は16%程度です。8割は未組織で、そこが無法地帯になり貧困状態が生まれている。それに対してナショナルセンターがどのように取り組むのかが大切なのではないでしょうか。
鈴木 逆にウーバーイーツやアマゾンは、コロナ下でものすごい業績をあげている。しかし労働者の条件をよくする気はなく、常に一定数を解雇する人事政策を世界的にとっています。
アマゾンは2009年のリーマンショックのときに、正当な理由がなく解雇を通告し、職場から締め出す「ロックアウト解雇」を世界各国で相当やっていました。さらにPIP(業務改善計画)という手法をとった。これは売上などの指標ではなく、協調性がないとか消極的といった抽象的な理由で従業員に改善を求めるというものです。通常の業務の他に課題が課されるため長時間労働になり、退職に追い込む手法としても使われます。このようなリストラ手法を編み出したのは、GEといわれていますが、私たちの下にはアマゾンで働く労働者からの相談が多く来ました。
アマゾンは、毎年6%は辞めさせるというシステムをつくりあげました。2015年にニューヨークタイムスの一面で「アマゾンの非人間的労働」という特集が組まれました。ここにアマゾンの現役、退職者100人の労働者の記事が掲載された。そのなかには癌サバイバーの女性が就労拒否されたり、倉庫の仕事でストップウォッチでトイレの時間をはかっているなどの実態が暴露されました。アメリカ本社が世界中のアマゾンに指示をしてそれをやるので、日本でも同じようにやられる。それが日本でのアマゾン組合の結成のきっかけでした。
アマゾン日本法人の弁護士事務所は最初はリベラルなところで、そこは交渉に応じるし協約もむすび、「日本の労働法制はアメリカと違う」などとアメリカ本社を説得もしていた。ですからトラブルはいったんは収まったのです。収まると組織化が止まるのですが、アマゾンはその法律事務所を解約したのです。そして2018年から19年ごろにかけて問題が再燃し、相談数が増えていきました。
鈴木 アマゾンはコロナ下での莫大な収益向上で自信をもったわけですが、それに対して世界中の労働組合もアマゾンで働く人たちに戦略的オルグを展開している。
アメリカでもナショナルセンターAFL-CIOに影響力を持つグループ「レイバーノーツ」などがオルグを展開し、保守的なアラバマ州でも組合結成選挙で接戦に持ち込むという成果をあげています。アマゾン社内では宣伝ができないので、組合活動家は会社をでたところにある信号待ちの時に社員にオルグするわけですが、当局はなんと赤信号の時間を短くしてまで阻止しようとしました。さらにはニューヨークの組合のリーダー二人を解雇しました。
いまは世界的な連携ができます。日本のアマゾン組合員たちは英語が堪能なので、SNSを使い、各国の活動家と連絡をとりあっています。ただ、日本の場合はアマゾンの倉庫では多くの現業労働者が派遣会社から派遣されていて、すごく組織化をしにくい。これは連合の課題でもありますが、日本では派遣労働者は派遣元との雇用関係にあるので、簡単に切られてしまう。アメリカやヨーロッパだと組織化に成功し、職場の過半数をとれれば倉庫で働く100人、1000人単位で組織化できます。しかし日本はなかなかうまくいっていなくて、倉庫で働く労働者よりもどちらかといえばホワイトカラーの人が加盟してくる。こうした課題が日本の労働運動にはあります。
木下 昨年論座に「新型コロナ危機が開く労働組合と政治のあらたな関係」という論文を書きましたが、日本では労働組合の集団的な声やデータを政治に吸い上げる力が弱い。連合もやってはいるが回路が弱い。そうなるとコロナ下での労働者の状態を政府が把握できない、対処もできないという悲劇を生んでいます。
鈴木 労働組合はボトムアップで、困難な労働者の状況や声やデータを吸い上げていかなければならない。ナショナルセンターも、もう非正規労働者が全労働者の4割を占めているのだから、役員だって4割じゃなきゃいけないはず。そうじゃなければ正確な声は反映されないわけですから。もちろん連合内部の役員構成でそこまでやるのは無理としても、運動のなかでそういう実態を反映させていかなければならないと思います。
木下 連合は転機にあります。政治でも労働界でも注目されています。神津会長は3期6年の長期政権の最後の2年間で、はっきりと「命と暮らしの政治」をうちだし、新自由主義に対抗するという姿勢を強めてきました。さらに神津会長の任期当初の2015年から野党共闘がはじまったものの、2017年には希望の党騒動で民進党が割れてしまいました。しかし2020年にはそれを修復して立憲民主党と国民民主党の合同に貢献しました。神津会長は労働運動が塊になって政治を支え、新自由主義に対抗していくことをはっきり示そうとした。しかし次期会長人事がなかなか決まらなくて、そこで鈴木さんが立候補しようとした。なぜそうしようと思ったのでしょうか。
鈴木 1989年の連合結成以来、会長選挙の立候補期間を延ばすというのははじめての事態です。これは
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