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衆院選のもう一つの論点~中国との向き合い方、そして台湾との関係

中国脅威論のいま必要なのは冷静な議論~日中国交正常化に尽力した大平正芳氏に学ぶ 

藤原秀人 フリージャーナリスト

 衆院選が10月19日、公示された。岸田文雄政権が発足して1カ月もたたないうちの、あわただしい選挙だ。

 日本では国政選挙であっても、外交が争点になることは稀だ。だが、隣国中国の異形ともいえる強大国化が日本人の心理を揺さぶり、脅威論は広まり続ける。あってはならない「台湾有事」がしきりに語られる今だからこそ、今回の選挙戦では、与野党ともに中国にどう向き合うかを冷静に論じてほしい。そして、それは台湾との関係の描き方を探ることにもなる。

拡大衆院選公示日、街頭演説会に集まって候補者らの演説を聴くは多くの人たち=2021年10月19日、愛知県内

「日中関係がこれ以上悪くなる可能性は小さい」

 岸田政権の発足に伴い、新聞各紙はいつものように内外の識者談話を掲載した。私が注目したのは、10月5日付け日本経済新聞朝刊に載った旧知の廉徳瑰・上海外国語大学教授の「バランスとれた対中政策に期待」だ。談話の一部を引用する。

 岸田氏は日中国交正常化を実現した大平正芳外相(当時)が率いた宏池会の流れをくむ。福田達夫自民党総務会長も日中関係に深く関わった祖父と父をもつ。要所にこうした人材を起用し、日中関係がこれ以上悪くなる可能性は小さい。

 中国の識者が外国メディアの取材を受けて発言する場合、共産党の考えから離れることはできない。ふつうは事前に党委員会や職場の取材許可が必要だ。だが、私の知る限り、廉氏は取材依頼に即答できる学者だ。当局から信頼されているからだろう。

 とはいえ、その公式発言は党の路線を逸脱するものではない。だから、「日中関係がこれ以上悪くなる可能性は小さい」という見方は、個人的見解にとどまらず党内ではかなり共有されていると思う。

日中関係の貢献者と評価される大平氏

 日中関係の「井戸を掘った」人物を中国人は評価する。中国報道に携わってきた私が中国側から聞いてきた評価のなかで、大平氏は関係正常化当時の田中角栄首相と並ぶ、あるいは上回る日中関係の貢献者だ。それは、外相時代に国交正常化と台湾断交、首相になって訪中と華国鋒首相の来日を実現させたのが主な原因だ。なかでも台湾問題に対する一貫した態度は評価されている。

 中国が日本との関係正常化で重視したのは、日本の戦争責任に関わる歴史認識と台湾問題だった。戦争責任は当然のことだが、台湾は日本が日清戦争勝利で獲得、統治した歴史的経緯があるだけに、中国側としては1ミリも譲ることは難しい問題だった。

 日本は、中国共産党との内戦に敗れて台湾に逃れた中国国民党率いる中華民国と外交関係を結んでいた。中国大陸侵略の反省から1949年建国の中華人民共和国との国交を望む声はあったが、冷戦下、米国の庇護にある日本は台湾と外交関係を維持せざるを得なかった。

 ところが、中華人民共和国に対する国際的な承認が広がり、北京が「敵の敵は味方」と、モスクワと鋭く対立していたワシントンに接近したことが、東京を動かした。1971年に中国が国連に席を得て、台湾が脱退。ニクソン米大統領が翌年に中国訪問。日本が中国との関係を正常化する外部環境が急速に整ったのだった。

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筆者

藤原秀人

藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト

1980年、朝日新聞社入社。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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