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分配で経済は成長するのか?~低所得者に冷たい日本、その構造にメスを

岸田首相の経済財政政策を考える

田中秀明 明治大学公共政策大学院教授

低所得者対策が手厚い2つの国、その哲学の違い

 どうしてこうした状況になっているのか。社会保障による現金給付(年金など)や税保険料負担が大きな影響を与えている。OECDが分析しており、表1を見ていただきたい。

拡大表1 OECD諸国における現金給付と税保険料負担による再分配の状況(2000年代半ば)

 「現金給付のシェア」とは、その国における現金給付総額のうちのどのくらいの割合が所得の低い下位20%に投入されているかを示し、「低所得者への給付」とは、当該下位20%の低所得者の可処分所得に占める現金給付の割合を示す。同様に、「税保険料負担のシェア」とは、その国における税保険料負担のどれだけを所得の低い下位20%が負担しているかを示し、「低所得者の負担」とは、当該低所得者の可処分所得に対する税保険料負担の割合を示す。そして、給付から負担を控除したのが、低所得者への純移転である(可処分所得で測る)。

 この表では、特にスウェーデンとオーストラリアが、社会保障の哲学において大きな相違があり興味深い。

 オーストラリアでは、現金給付は低所得者に集中的に投じられる一方(41.5%)、彼らの税負担は極めて少ない(0.8%)。他方、スウェーデンは、低所得者も一定の負担をする一方で(6.5%)、現金給付はそれほどでもない(25.9%)。しかし、低所得者への純移転(可処分所得に占める割合)は、両国ともほぼ同じだ。つまり、両国とも低所得者対策は手厚いが、オーストラリアはもっぱら低所得者に振り向ける選別的な政策をとり、スウェーデンは低所得者に限らず国民全体で再分配する、より普遍的な政策をとっているのである。

低所得者に冷たい日本~社会保険にメスを入れなければ解決しない

 日本はどうか。低所得者が負担する税保険料負担の割合は6.0%でスウェーデンより少し少ないだけであるが、現金給付は15.9%に過ぎない。下位20%に振り向けられる現金給付は、現金給付全体の20%に満たないのだ。いかに日本は低所得者に冷たい国なのか。この結果、低所得者への純移転はアメリカと同じ水準になっている。

 日本が低所得者に冷たい理由の1つは、日本の社会保障制度が

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筆者

田中秀明

田中秀明(たなか・ひであき) 明治大学公共政策大学院教授

東京工業大学大学院及びロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院修了、博士(政策研究大学院大学)。専門は公共政策・財政学・社会保障。1985年旧大蔵省入省後、旧厚生省、外務省、内閣官房、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年より現職。主な著書に、『官僚たちの冬』(2019年、小学館新書)、『財政と民主主義』(共著、2017年、日本経済新聞出版社)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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