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「親ガチャ」「国ガチャ」「性別ガチャ」……この不平等社会でできること

藏重優姫 韓国舞踊講師、仁荷工業専門大学語学教養学科助教授

報道が印象付ける「個人的問題」

 名古屋入管の施設で亡くなったスリランカ人のウィシュマさんを巡る問題もなんかひっかかる。現在、末の妹さんだけが日本に残って闘っておられるのだが、ウィシュマさんが亡くなるまでの映像が公開された後、また締めくくりのコメントが「……ウィシュマさんの妹、ポールニマさんはウィシュマさんが亡くなった真の原因が分かるまで帰りたくないと訴えます……(完)」

 また、妹さんがどうのこうので終わってしまった。もちろん、帰りたくないのは事実なんだろうけど、そのコメントが印象付けるのは個人的問題なんだよ! この歯がゆい気持ちになっているのは私だけだろうか。

 簡単なことだ。「私たちに何ができるのでしょうか」「私たちは何をしなければならないのでしょうか」と言えばいいだけ。もっと社会に突っ込んだ、胸にガツンと響くようなコメントじゃないと、人は皆、他人事として受け止めてしまう。私たちがこの社会を変えられるはずなのに、その「印象」は遥か遠いところにある。

 落ち着きを見せている新型コロナに関しても、今こそ皆が振り返る時だ。防疫対策が結局、個人的次元に終始していた。感染すると、「病院に行けない、検査してくれない、自宅で死ぬ」ということを覚悟しなければならないし、それは結局「自分でなんとかしろ」という意味だ。この間、私も韓国で自宅隔離を経験した。でも韓国では、「病院に行けない、検査してくれない、自宅で死ぬ」は、考える必要のないことであった。

 コロナ禍は格差社会を浮き彫りにした。リモートで仕事をできるのは一握りで、満員電車に乗らないといけない、業種によっては感染覚悟で働かないといけない、さらには、感染覚悟でもいいから仕事に行きたいと切迫した人もいるだろう。

 韓国でも、農業や土木建築などの仕事をしている外国人から集団感染がちらほら出ているという報道があった。集団で生活せざるを得ない労働条件が問題で、貧しければ貧しいほど、感染リスクが高くなるという図式だ。農業や土木、清掃、介護等、社会的に評価されにくい職業が、人間の生活には最も必要不可欠な職業であるということを、私たちはちゃんと認識し、賃金などの条件を改善すべきだ。

多くの塾が入居するビルの廊下は、成績を上げることに定評がある「スター塾講師」たちのポスターで埋め尽くされていた=2018年11月、ソウル拡大多くの塾が入居するビルの廊下には、成績を上げることに定評がある「スター塾講師」たちのポスターが貼られていた=韓国・ソウル

 悲しいかな、韓国はすごい能力主義だ。高学歴が出世の最有力手段であり、また、最近では学力より、金銭的に裕福なことが成功だと捉えられている。高学歴が得られないのなら、株式で上昇してやるという人や、とりあえず公務員になるという人も多い。注目すべきは、能力主義がこれほど浸透すると、不平等や格差が、いとも簡単に正当化されてしまうという事実だ。「君が勉強を頑張らなかったからだよ。なぜ、そんなことも知らなかったの? 遅れてるよ。方向性を見誤ったね。もっと勉強しな。貧しかったからだね。仕方ないよ」

 こう考える人は今一度考えてみてほしい。

 日本で生まれたのも運。衣食住に困らない家庭で生まれたのも運。今、病気にかかっていないことも運。民族紛争や内戦が勃発する地域では、コロナどころではないし、ワクチンにしてもこれから議論されようとしている。地球上のどこで生まれるか、どんな家庭に生まれるかは、本人の責任の範疇ではなく、運なのだ。

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筆者

藏重優姫

藏重優姫(くらしげ・うひ) 韓国舞踊講師、仁荷工業専門大学語学教養学科助教授

日本人の父と在日コリアン2世の間に生まれる。3歳からバレエ、10歳から韓国舞踊を始め、現在は韓国にて「多文化家庭」の子どもを中心に韓国舞踊を教えている。大阪教育大学在学中、韓国舞踊にさらに没頭し、韓国留学を決意する。政府招請奨学生としてソウル大学教育学部修士課程にて教育人類学を専攻する傍ら、韓国で舞台活動を行う。現在、韓国在住。日々の生活は、二児の子育て、日本語講師、多文化家庭バドミントンクラブの雑用係、韓国舞踊の先生と、キリキリ舞いの生活である。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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