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「体制選択選挙」の真の意味~「永続敗戦レジーム」からの脱却か護持か

共産党アレルギーの正体は対米従属批判というタブーへの恐怖だ

白井聡 京都精華大学人文学部専任講師

市民連合と政策合意を交わし、記念撮影する(右から)れいわ新選組の山本太郎代表、立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長、社民党の福島瑞穂党首=2021年9月8日拡大市民連合と政策合意を交わし、記念撮影する(右から)れいわ新選組の山本太郎代表、立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長、社民党の福島瑞穂党首=2021年9月8日

野党共闘の起源と、その蝸牛のような歩み

 今回の総選挙の画期が、野党候補の一本化(事実上の野党共闘)がかなりの程度実現したことにあることは言うまでもない。だが、ここまで来るまでには、本当に長い時間がかかった。

 この共闘体制は、2012年の総選挙における民主党の惨敗=自民党の政権復帰の時点、否もっと前の、鳩山由紀夫政権が退陣したところから、その必然性が明らかになったものだったからだ。

 鳩山政権にとって代わった菅直人政権、野田佳彦政権は、安倍晋三氏が言うのとは違う意味で「悪夢の民主党政権」となった。すなわち、3.11の衝撃を受けて打ち出された脱原発路線は、既得権益勢力の抵抗に遭って何とも中途半端なものへと骨抜きされた。米軍普天間基地の代替基地は辺野古沖へと差し戻された。そして、特別会計の問題など財政問題の根本には何ら手がつけられないまま、消費税の増税が決められた。つまり、2009年政権交代時のマニュフェストの実現は総じて放棄され、政治を国民の手に取り戻すという約束は反故にされたのである。

 本来この時点で、政界は二分されねばならなかった。私は、特殊な対米従属を基盤として、自由主義と民主主義をきわめて外面的にのみ奉じ、安定と秩序の美名のもとに公正を無視して既得権益の不動の構造を死守する「体制」を「永続敗戦レジーム」と命名した(『永続敗戦論』,

2013年)。この権力構造は、福島第一原発の事故と沖縄米軍基地問題をめぐって矛盾を赤裸々に表面化させたのだった。ゆえに、政治勢力の二分、その根本的な争点は、この構造を維持するのか、それともこの構造を壊すのか――まさにこの点に見定められなければならず、そのためには政界の大再編も起こされなければならないことが、明瞭になった。

 しかし、現実の政界の動きは蝸牛の歩みだった。旧民主党勢力のうち、ある者は同党を見限って飛び出し、またある者は「永続敗戦レジーム」あるいは「戦後の国体」(『国体論――菊と星条旗』、2018年)と私が名づけたものの内部に同化した。

 こうして「体制」に対峙する勢力の結集は遅々として進まなかったが、大きなきっかけを与えたのは、2015年の集団的自衛権の行使容認という解釈改憲に基づく新安保法制であった。これに対する草の根的な反対運動が大きなうねりをつくり出すなか、「法治の破壊の阻止」「立憲主義の擁護」の一点で、旧民主党勢力(その一部)と日本共産党、旧社会党系勢力が共闘する機運が生まれた。

安保法制関連法案の廃案を求めて国会前で声を上げる人たち=2015年9月15日、東京・永田町拡大安保法制関連法案の廃案を求めて国会前で声を上げる人たち=2015年9月15日、東京・永田町

 このことが伏線となって、小池百合子東京都知事と前原誠司民進党代表(当時)による、希望の党騒動が発生する(2017年)。あのとき、「排除」の基準となったのは、日米安保体制の強化と原発の問題だった。小池百合子氏は、この二点で「永続敗戦レジーム」の(もちろんその中核には自民党がある)前提と政治理念を一致させるよう旧民主党政治家たちに要求したのである。つまりは、小池氏が領導した希望の党の運動は、旧民主党勢力を第二自民党へと純化することを狙ったものであり、政権交代を事実上不可能(それが生じても本質的には何も変わらなくなる)とし、その限界をさらしている「体制」をさらに永続化しようとするものであった。

 ここにおいて、「排除」された政治家たちが枝野幸男氏を中心として立憲民主党を結成する。「体制」批判勢力は、自らを確固たる勢力として自己確立することに手間取っているうちに、「体制」の側から「排除」を仕掛けられ、ついに起ち上がることになったのである。

 以上のように経過をたどってみると、立憲民主党を中核とする「体制」批判勢力の結集に日本共産党が参加することは不可避的な流れであったと理解できるだろう。共産党は、「体制」に対する最も断固たる批判者であり、結集の実現とそれへの参加に強い意欲を示していたのだから。

 しかしながら、立憲民主党の結党以降も、野党共闘の陣形構築の速度は上がらなかった。2019年の参院選では旧民主党勢力が立憲民主党と国民民主党というかたちで並び立つ状況を解消できず、他の野党との候補者・選挙区調整も2016年の参院選や2017年の衆院選に比べれば前進したものの、それでもまだ中途半端に終わり、自公政権の勝利を許した。

 立憲民主党が国民民主党の大部分を事実上吸収するかたちで旧民主党勢力の再結集が実現したのは、ようやく2020年9月15日のことであり、遅くとも2021年秋には確実に行なわれることがわかっていた衆議院総選挙における野党間の共通政策合意がなされたのは、今年の9月8日のことである。衆議院の解散風が吹くたびに、野党陣営はつねに「準備不足だ」と目されていた。まるで永久に続く8月31日を生きる小学生のように。

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筆者

白井聡

白井聡(しらい・さとし) 京都精華大学人文学部専任講師

1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。専攻は政治学・社会思想。著書に『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版)、『未完のレーニン――〈力〉の思想を読む』(講談社選書メチエ)、『「物質」の蜂起をめざして――レーニン、〈力〉の思想』(作品社)『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)。共訳書に、スラヴォイ・ジジェク『イラク――ユートピアへの葬送』(河出書房新社)、監訳書にモイシェ・ポストン『時間・労働・支配――マルクス理論の新地平』(筑摩書房)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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