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選挙に行こう、そして危機を打開する新しい政治を選択しよう

与野党拮抗と大連立につながる行動が日本を救う。力強い政策を実現させるために

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

拡大国会議事堂=2021年7月17日、東京都千代田区、朝日新聞社ヘリから

激化する国際社会の生存競争。「失われた30年」のままの日本

 間もなく衆議院選挙の投票日だ。

 アメリカではアメリカファーストを唱え、国際社会の指導国としての地位を少なからず貶めたトランプ氏に代わり、国際協調を掲げるバイデン大統領が登場した。イギリスではBREXITが成り、ドイツでは16年首相として欧州で最も尊敬されてきたメルケル首相が舞台を降りる。一方、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席は権力基盤を固め、今後も相当長期にわたってトップの座に居続ける様相を呈している。かくして国際社会は民主主義体制と専制主義体制の対立が深刻となると見られ、国際社会の生存競争は激化する。

 日本は、バブル崩壊から「失われた30年」の年月が経過した。この間、16人の首相が誕生したが、日本経済は成長せず、年収も30年間横ばいを続けた。衆議院選挙で問われるべきは、「これで良いのか」と言う事ではないか。主要政党の選挙公約や党首討論からは危機意識は伝わってこない。

 果たして、今度の選挙でどういう選択をすべきなのか。まだ投票先を決めていない「無党派」と言われる人たちは改めて日本の統治に何が必要かを真摯に考え投票行動を決めなければならないと思う。

拡大党首討論で議論する(左から)社民党の福島瑞穂党首、国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長、立憲民主党の枝野幸男代表、自民党の岸田文雄総裁、公明党の山口那津男代表、日本維新の会の松井一郎代表、れいわ新選組の山本太郎代表、NHK党の立花孝志党首=2021年10月18日、東京都千代田区

日本の現状に強い危機感を持たなければならない

 自民党総裁選挙で物事を変えていく活力と意思を持った人材が台頭してくるのではないかという期待とは裏腹に、結果的には総裁選やその後の人事を通じて自民党の旧態依然とした長老支配が目立つこととなった。このままでは日本を変えるのは難しい。日本は経済成長、一人当たり国民所得、労働生産性、少子高齢化、公的債務のGDP比といった主要経済指標やジェンダー・ギャップ、報道の自由度などの社会指標のいずれをとっても、この30年間停滞を続け、G7の劣等生となりつつある。

経済沈滞、気候変動対策とデジタル化も周回遅れ

 とりわけこの10年近くは長期政権であり、自民党一強体制、官邸一強体制と言われ政権基盤が強かったにもかかわらず、経済的にも社会的にも沈滞した。

 アベノミクスと言われ株価は上がり、円安により輸出産業は潤ったが、労働賃金の上昇にはつながらず、低成長にとどまった。大幅な金融緩和や財政出動もデフレ克服には繋がらず、企業留保は大きく増えても国内に有力な投資先はない。震災やコロナのたびに巨額の財政出動を繰り返し、今や公的債務のGDP比は250%を超え、成長せず税収は大きく上がらず、借金のみが増える結果GDP比改善の見通しもない。

 国際社会では近年、最も高いプライオリティと考えられてきた気候変動対策やデジタル化対策も日本は周回遅れで、新型コロナ感染で注目が集まった在宅勤務、オンライン授業や在宅医療のためのネット環境も劣ることが明らかとなった。今現在の時点でも米国やEUでは気候変動やデジタル革命に向き合う7-8年の長期予算計画が審議され実行に移されようとしているが、日本では相変わらず予算単年度主義の制約のもと、短期的な思考と前例踏襲主義でどんどん遅れていく。

いまだに少ない女性候補者、相変わらずの世襲候補者

拡大前回の衆院選で投票する家族=2017年10月22日、大津市
 東京オリンピックの際の女性蔑視発言などでジェンダー・ギャップを埋めていく重要性が語られたが、この選挙に立候補している女性候補者の数は全立候補者の17.7%に過ぎず、2017年の選挙時よりも増えていない。ジェンダー・ギャップの改善に率先して動くべき連立与党の自民党、公明党の女性立候補者は何と10%にも満たない。「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されて初の選挙であり、2025年までに国政選挙に占める女性の割合を35%にする目標が掲げられているにも拘わらず、である。

 また長老議員の引退に伴い世襲候補者が立候補するという図式も自民党が圧倒的に多く、結局、全体に占める世襲候補者の割合は29.5%、99人を数える。まさに政治家は手放せない家業となっているのだろうか。

コロナ対策は本質を見据えて

 コロナ対策にしても、勿論ワクチン接種率の向上や経口治療薬の早期承認は重要な施策であるが、本質的に重要なことは今後の第6波、第7波で迅速に動けるシステムだ。諸外国では押しなべてそうであるが、ロックダウンを繰り返さないためにも、ワクチン、PCR検査、隔離、医療体制などを迅速に展開できるシステムの構築が最も重要だ。

 規制が解除されればGo Toで補助をしなくても旅行客は大きく増える。再びGo Toを繰り返すより、限られた資金をコロナの再拡大を防止するシステム作りに投入すべきなのだろう。

平和と安定には防衛力以上に外交力の重視を

 外交安全保障についても、この10年の傾向は外交で安定と平和を作るという発想よりも抑止力の強化の方向性が顕著だった。勿論、日米の総和としての抑止力の強化のために日本も防衛力を拡大していく事は重要であるが、中国や朝鮮半島といった脅威の影響をもろにかぶらざるを得ない日本が平和と安定のための外交をおざなりにしてはならない。朝鮮半島や中国に対する大戦略を日本は持つべきなのだが、そうであるとは見えない。

 この選挙にしてもあたかも争点は「敵基地攻撃能力の保持」であるという。50年代の「座して死を待つことはしない」という国会答弁で示唆されていたミサイル防衛の一形態なのだろうが、今やミサイルの発射は移動式発射台、列車からの発射、潜水艦からの発射など固定基地からの発射は稀であり、そのために憲法上認められてこなかった敵地を攻撃出来る射程を持ったミサイルの保持を議論するのは本末転倒だ。

 日米安保条約上の米国が攻撃、日本が防衛という役割分担を崩す意味が本当にあるとも思えない。保守ナショナリスト的議論が強い影響を与えている。

拡大衆院選候補者の街頭演説に集まった人たち=2021年10月19日、大阪市北区

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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