松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
この国に足りない「人権」を根づかせる一歩に
この衆院選で何が問われているのか。思い浮かべることは、人それぞれだと思う。
けれども、多くの人が望むのは、つまるところ、人間らしく生きられることではないだろうか。言い換えれば、「人間の尊厳」と「人権」の保障である。
豊かか貧しいか。どんな働き方をしているか。性的指向が同性か異性か。国籍や障がいの有無……。人にはさまざまな違いがあるけれど、どんな状況に置かれていても、人間らしく生きる権利がある。
しかし、残念ながらその権利はいまだお題目だ。現実のものにするには、どうすればいいか。
私の権利は守りたいけれど、あなたの権利には関心がない。そう思っていたら、おそらく手に入らない。なぜなら、踏みにじられるのはたいてい、数の少ない側、権力をもたない弱い側だからだ。
だれかの権利を守らない国は、あなたの権利も、私の権利も守らない。置かれた状況はそれぞれに違っても、「人間として扱え」という共通の目標に向かって力をあわせる。その力が大きくなれば、動かなかった重い扉も開くに違いない。
この社会の中でも、著しく権利を制限されている一例が、日本に在留する資格をもたない人たちだろう。裏返せば、そうした立場の人たちも人間らしく生きられるかどうかは、その国の人権状況を表すメルクマールとなる。
その点、日本は落第といわざるをえない。いかに日本に「人権」が根づいていないかを端的に表している。
出入国在留管理局の収容施設の中で何が起きているのか。一端がわかる映像がある。
おおぜいの入管職員がたった1人の男性をねじ伏せ、後ろ手に手錠をかけ、口をふさぎ、首に指をねじ込む様子が映っている。
「はい制圧!」「ワッパをかけろワッパ!」「痛いか!」
男性が悲鳴を上げる。
「空気入らない!」「やめて、痛い、いたぁーーーーいっ!」
茨城県の牛久にある東日本入国管理センターに収容されていたクルド人男性のデニズさん(42)が2019年1月、入管職員に対し、眠るための薬を求めたところ別室に運び出され、「制圧」される映像だ。デニズさんが暴行を受けたとして国に損害賠償を求めた訴訟で、国側が証拠としてこの映像を提出した。2分ほどに編集してあるので、自分の目でみてほしい。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?