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選挙より大事なものがあるから投票に行こう~私たちの一票マニュアル

バラバラになった「個人」がプカプカ浮かんでいる日本社会で一票を投じることの意味

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

努力で獲得したはずの実力も運がよかっただけ

 ここまで論じてきたことをまとめてみる。

 我々は、「国民」=「個人(individual)」として、生まれながらに無条件に尊重されることとなっている。だが、個人として尊重されることと引き換えに、「個人」とは合理的かつ理性的で、意見の違う「他者」を尊重し、日々政治的な問題や共同体の在り方について考え、自分を律することのできる人間である、という設定がされている。

 ここで言う「自分を律する」とは、「修行僧のようにいろ」ということではない。自分のおかれている立場やリソースを無駄にせず、自分のためか、他者のために使ってみる、ということである。

 だが、立場やリソースは人によって異なる。また、政治的な問題や共同体の在り方について考えよ、政治に参加せよと言われても、そもそもその「参加」のスタートラインに立てるかどうかで、不平等が生じている。

 政治参加に意義を感じるには、それなりの教育環境が与えられることも重要な条件である。しかし、マイケル・サンデルが『実力も運のうち』(早川書房、2021)で指摘しているとおり、現代社会においては、「どこに」「誰のもとに」生まれるかによって、その後に受けることのできる教育の水準が決まってしまっている側面が強い。

 同書の原題は“The Tyranny of Merit”。直訳すると「メリットの専制」だ。メリットとは、日本語できくニュアンスとは少し違い、「能力×努力」くらいに考えればよい。現代社会では、自分が努力によって獲得したと思いこんでいる実力も、実は「どこに」「誰のもとに」生まれたかによって運がよかっただけなのだ、ということが含意されている。

 そうした“不都合”を隠すためにも、「努力をすれば皆能力は磨かれ、社会的地位も獲得できる」との命題が社会を覆った。それが、運によって得られた“メリット”による専制だというのである。

拡大ショッピングモール内に設けられた期日前投票所=2021年10月22日、宇都宮市内
たっ

境遇や立場ごとにそれぞれの投票を

 『正義論』を著した法哲学者のロールズは、「無知のベール」という概念を提唱した。それぞれの人間が、自分の属性がまったくわからない「無知のベール」をかぶっていた場合、何らかの政策選択をするときに、あらゆる配慮が働く。

 自分がもし障がいを持っていたら、少数民族だったら、高齢者だったら、非正規雇用の人間だったら……。人々は自分がどんな人間かわからなければ、どんな状況に置かれても最悪にならないような選択をするはずである。

 政治への「参加」にインセンティブを持てなかったり、「それどころではない」と言ったりする人は、自分の境遇が少しでも改善されるような投票行動をしてみてはどうか。

 「自分には不満がない」「関心がない」というのがインセンティブを持てない理由であれば、「無知のベール」をかぶってみて、自分がもし自分の意思や努力ではどうしようもない境遇におかれていたら、いったい何を望むかということを基準に、投票をしてはどうだろう。自分の持つ一票を、まだ見ぬ誰かのために使うのだ。

拡大衆院選候補者らの街頭演説を聴く人たち=2021年10月24日、神戸市中央区


筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士、慶応グローバルリサーチインスティチュート(KGRI)所員。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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