メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ポルノサイトをめぐる世界の潮流:パンデミック下の「セックスワーカー」

塩原俊彦 高知大学准教授

 日本の新聞と異なって、「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)はときどきセックスにかかわる長文の記事を掲載し、大きな反響を引き起こしている。

 あるいは、The Economistもときどき興味深い記事を公表する。最近では、「クレジットカード会社はウェブの不承不承の規制者になりつつある」という記事のなかで、2021年10月15日から、マスターカードが世界中のアダルトサイトに対して、写真やビデオに写っている人の年齢や身元、アップロードした人の身元を確認することや、迅速な苦情処理手続きを行い、公開前にすべてのコンテンツを審査するよう義務づけることになったと紹介している。マスターカードだけでなく、VISAもアダルトサイトに対して厳しい態度で臨んでおり、いわば当局に代わって、クレジットカード会社が規制に乗り出しているのだ。

アダルトサイトのPornhub

 ここでは、2020年12月4日付の記事以降今年の夏までに広がった、ポルノサイトをめぐる「騒動」を紹介し、このところ何が問題になっているのかを紹介したい。

 本題に入る前に、NYTが2019年9月28日付で配信した、「昨年、ハイテク企業から報告された子どもたちが性的虐待を受けているオンライン写真やビデオの数は4500万件を超え、これは前年の2倍以上にあたる」という記事を紹介したい。そのなかで、「児童ポルノとして共通に知られているものは、デジタル時代以前から存在していたが、スマートフォンカメラ、ソーシャルメディア、クラウドストレージのおかげで、驚くべき速さでそれらは増殖してきた」として、テクノロジーの変化が引き起こす問題のなかで、とくに児童ポルノについて関心を寄せている。

 こうした問題意識から、NYTのコラムニスト、ニコラス・クリストフは先に紹介した2020年12月4日付記事において、アダルトサイトのポーンハブ(Pornhub)を批判している。ポーンハブはユーチューブ(YouTube)のように人々が自分の動画を投稿できるようになっている。毎年サイトに投稿される新しい動画680万本の大部分は同意した大人が出演しているのだろうが、「児童虐待や同意のない暴力を描いたものも少なくない」という。「動画のなかの若者が14歳なのか18歳なのかを確かめることができないので、ポーンハブもほかのだれもがどれくらいのコンテンツが違法であるかを明確に把握していない」と指摘している。

2)	Jmiks/shutterstock.com拡大Jmiks/shutterstock.com

 とくに、ポーンハブへの風当たりが強いのは、「ユーチューブとは異なり、ポーンハブがこれらのビデオをウェブサイトから直接ダウンロードできるようにしている」点にある。この結果、当局の要請で動画が削除されたとしても、すでに何度もダウンロードされており、再び別のサイトにアップロードされてしまうのである。

企業としてのポーンハブ

 拙著『サイバー空間における覇権争奪』の序章「技術と権力:サイバー空間と国家権力」において、第二節を「サイバー空間を切り拓くダーティー産業」としておいた。その理由は、性にかかわるポルノビデオ、オンラインカジノなどの「ダーティー産業」がサイバー空間の拡大に大いに貢献してきた歴史に目を瞑ってはならないと思うからである。

 その意味で、2000年に6375人の一般市民を対象に、21世紀の社会に最も大きな影響を与えていると思われるハイテク企業を、コミュニケーション、データセキュリティ、持続可能性、知識の共有、慈善活動、社会への貢献度などの観点から調査した結果として、「21世紀の社会に最も大きな影響を与えたハイテク企業」の第三位にポーンハブが選ばれたことは注目に値する。第一位がフェイスブック(現、「メタ」)、第二位がグーグル、第四位がマイクロソフト、第五位がアップルであったことを考えると、ポーンハブにもっと関心がもたれるべきだと思えてくる。

 NYTの記事によれば、ポーンハブはマインドギーク(MindGeek)によって所有されている。マインドギークは100以上のウェブサイト、制作会社、ブランドをもつ民間の「ポルノコングロマリット」であり、そのサイトには、Redtube、Youporn、XTube、SpankWire、ExtremeTube、Men.com、My Dirty Hobby、Thumbzilla、PornMD、Brazers、GayTubeなどが含まれている。なお、「XHamsterやXVideosなど、マインドギーク以外にもポルノ業界の大手企業は存在するが、マインドギークはポルノ業界の巨人である」としている。税制上の理由から名目上はルクセンブルグを拠点としているが、マインドギークはモントリオールで運営されている私企業だ。

「ポーンハブはエプスタインの1000倍」

 クリストフは記事の最後に、「ポーンハブがあると、ジェフリー・エプスタインを1000倍にしたようなものだ」と記している。エプスタインは、拙稿「デジタル庁事務方トップ人事に大いなる疑問符」のなかで説明したように、少女性愛にかかわる性犯罪者であり、米国人から猛烈に嫌われてきた人物だ。ポーンハブはその人物の1000倍もの悪だと、クリストフはやり玉にあげていることになる。

 この厳しい批判に対して、ポーンハブは2020年12月8日になって声明を発表し、①直ちにポーンハブからユーザーがコンテンツをダウンロードする機能を削除した(ただし、検証済みモデルプログラムでの有料ダウンロードは例外)、②直ちにコンテンツパートナーとモデルプログラムの関係者のみがポーンハブにコンテンツをアップロードすることができるようした(年明けには、認証プロセスを導入し、本人確認のプロトコルに成功したユーザーはだれでもコンテンツをアップロードできるようにする)――ことなどを明らかにした。

 そんな彼は、記事のなかで、「検索エンジンや銀行、クレジットカード会社が、子どもや意識のない女性への性的暴行を収益化している会社を支援する理由はわからない」と記し、「ペイパル(PayPal)がポーンハブとの協力関係を停止できるのであれば、アメリカン・エクスプレス、マスターカード、ビザも同様だ」と、厳しく詰め寄った(なお、2019年に、ペイパルはポーンハブおよびポーンハブに動画を提供している業者に対し、ペイパルを通じた支払いを禁止している)。

 すると、マスターカードは2020年12月10日に発表した声明のなかで、調査の結果、「マインドギークのサイト上で違法なコンテンツを禁止する当社の基準に違反していることが確認された」として、同社は同サイトでのカードの使用を中止することにした。その後、マスターカードは、アダルトコンテンツの販売者への支払いを処理する銀行に対する新しいルールを課した。ビザも別の声明で、「マインドグリークにサービスを提供している金融機関に対し、ビザネットワークを通じた支払いの処理を停止するよう指示している」としたのである。

 こうした措置は、これまでマスターカードやビザのカードを使ってポーンハブの利用者が簡単に利用できた決済サービスを受けにくくするものであり、結果としてポーンハブにとって大きな打撃となったのである。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

塩原俊彦の記事

もっと見る