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極寒の冬、コロナ禍、食糧危機、子どもを売る親も……アフガニスタンに命を守る支援を

携帯のネットワークを介し、生活困窮の人々に対して最低限の生活資金を届けたい

小美野剛 ジャパン・プラットフォーム共同代表理事 CWS Japan事務局長

 タリバンが実権を掌握したアフガニスタンでは人道危機が深刻化している。カブールの最低気温は零下を下回る日も出てきており、本格的な冬の到来を感じられるようになった。

 アフガニスタンの冬は非常に厳しい。12月から2月にかけて零下20度まで気温が下がる場所もあり、数メートルにもなる降雪は山地の道を塞ぎ、物流も阻む。過去最悪の人道危機に陥っている中、越冬が意味するもの、そして効果的な支援の方法について、本稿では考察してみたい。

中央山岳地帯の積雪の様子©CWS

今までにない厳しい冬が訪れる

 アフガニスタンでは1400万人が食糧危機にあると言われてきたが、その数は冬の訪れによって大幅に増し、冬の間に2280万人が深刻な食糧危機に陥ると予測されている。

 なかでも、320万人の子どもたちが急性栄養失調になることが危惧されている。これは全人口の5歳以下の子ども達の半数にも及び、こういった状況が全土の8割(34州のうち27州)で急速に進行している。

 また、干ばつが国土の3分の1に深刻な影響を及ぼしており、この時期には終了しているべき小麦の種蒔きがが多くの地域でできなかったことから、来春の食糧危機も悪化することは明らかだ。さらに今年に入って約70万人が家を追われ、その8割が女性や子どもである。これらの避難民の半数にまだ、支援が届いていない。

 こうした緊急ニーズに鑑み、世界中で支援を拡充する動きが広がっている。私が事務局長を務めるCWS Japanでも、アフガニスタンの困窮者を救う資金を募るクラウドファンディング「緊急支援:アフガニスタンの生活困窮者が生き抜くために命を守っていく」を11月4日に開始した。12月15日までに集まった資金をもとに、困窮した人々に生活資金を届ける予定だ。皆さんのご理解と支援を心からお願いしたいと思っています。

 アフガニスタンの山地では夜はもう零下だ。これからさらに極寒となる。ヒマラヤ山脈の標高5000メートル地点の気温と同じ。アフガニスタンの極寒はそれ自体が災害と言っても過言ではない。

 燃料や食糧を蓄えておけるかどうかが生死を分けるとされ、我々もこれまで人道支援としてキャッシュ・食糧や毛布・燃料などの供与を行ってきた。今年は、過去最悪規模の人道危機にありながら、蓄えがまったくない状況で冬を迎えた。

増える栄養失調。子どもを売る親も

 先述のように、アフガニスタンでは暖をとる燃料や食糧の備蓄があるなしが生死を分ける。それゆえ、冬が来る前に、できる限りの備えをしておく。ところが現在は、日々の食べ物にも困り、極度の栄養失調に陥る子どもが多数存在するのが実情だ。備えるどころではない。大人が食べるものを減らし、子どもに分け与えるのが当たり前になっている。

紛争を逃れて避難した一家©CWS

 上の写真の一家は、紛争が激化したアフガン東部から命からがら逃げてきたが、手持ち資金が尽き、写真に写っているものが全財産だ。その中から売れるものを見つけ、買ってくれる人を探して売る毎日だ。

 日銭はわずか。その日、一番安いものを食べる。例えば、腐りかけの野菜は安くなる。この日はトマトだったというが、それだけを食べる。もちろんお腹はふくれない。空腹のまま夜を明かすという。

 別の場所では、ある母親がモスクを訪れ、子どもを引き取ってくれるよう周りに懇願したそうだ。自分では育てられないので、食べるものを与えてくれる人に引き取って欲しいとのことらしい。

 また、別の場所ではある避難民の母親が、自分の1歳半の子どもを3万アフガニー(4万円強)で売っていた。他の子どもたちも含め、家族全員がダメになってしまう状況下での苦渋の選択だったと言う。幼い子どもたちが早期婚を余儀なくされているという報告もある。

カブールに留まる避難民家族©CWS

 今まで教師や警察などの職についていた人々が物乞いをする姿も見られるようになった。家族を食べさせられず、現状に耐え兼ねて自殺する人、餓死する人も出てきた。これらはすべて、現地にいる我々の仲間達が、現場で見聞きしているケースである。

 こうした窮状を前にしたある同僚は、「現場から家に帰るのに必要な金だけ財布から取り、あとの身銭はすべて置いていった」と言っていた。自分の生活も苦しいのに、人道を重んじる心が彼を駆り立てたのだろう。この同僚の目には涙が浮かんでいた。経験豊富な人道支援者でさえ、今の状況はとてつもなく厳しいのだ

確実に起きているコロナ感染。遅れる対策

 アフガニスタンで新型コロナウイルスの感染はどうなっているのか。ニュースに出てこないため、あまり知られていないが、感染拡大は確実に起きている。

 日本は10月末時点で感染者170万人強、死亡者数が1万8千人強である。死亡率は全体の単純計算で1.06%程だ。アフガニスタンは累計15万人強の感染者に対して死亡者は7千人強。死亡率は4.65%だ。また、日本では現在0.5%程度まで下がっている陽性者率は、アフガンでは20%前後で推移している。

 下のグラフは世界保健機関(WHO)のモニタリングデータだ。タリバンが政権を奪取した8月中旬の陽性者率が20~30%くらいと高く、その前にもさらに高い陽性率を示している。全体として十分な検査が実施できておらず、正確な状況を把握できていないことを示唆している。その後は検査数が激減しており、現在の状況は全くわからない。

 ちなみにワクチンを接種しているのは人口の5%ほど。人口の7割がワクチン接種を終えた日本とは雲泥の差である。

グラフ 出典:世界保健機関(WHO) COVID-19 Epidemiological Bulletin, Afghanistan https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/weekly-epidemiological-bulletin_w41.pdf

 この1年半の支援活動を通じて、様々な国の新型コロナの状況を見てきた経験から言えば、感染対策に注力できることは、ある意味幸せなことだと思う。アフガニスタンのような国は、コロナ以上の致死率を持つ他のリスクが多く、コロナ対策に重点をおくことができない。リスクというのは、相対的なのだ。

 単に比べるのは良くないが、対策ができる我々はきちんと対策をとり、それができない国に対しては積極的に支援することが重要ではないだろうか。

貧困が生み出す負のスパイラルをなくすために

 ここまで述べてきた状況は、何を意味するのだろうか。

 まず、人道危機によって、普遍的な「生きる権利」が損なわれている。そうならないよう、救える命は救いたいと思い、我々は日々活動している。

 もう一つは、こうした状況が社会の不安定化をさらに生み出しているということだ。

 2001年、アフガニスタンに米軍が侵攻し、国際社会が支援する政権になって以降、この国では戦闘や不安定化が常に付きまとってきた。当時、支援関係者の間で「タリバン化」と言われる現象があった。これは、失業率が高く、貧困にあえぐ人が、タリバンの戦闘に参加することによって給与を得て生活することを指す。思想の影響もあったとは思うが、経済的な理由で戦いに参加する人が多かったのは事実だ。

 家族を食べさせられない人は、何とかしようとする。そこにテロ組織は目をつける。タリバンが実権を掌握した後も爆破テロが続いているが、これを根絶できるかどうかは、テロ組織に簡単に勧誘されない土壌をつくれるかどうかにかかっている。そういう観点からも、極限状態にあるアフガニスタンには迅速な人道支援が必要なのである。

放置された耕作地の様子©CWS

効果的な携帯のネットワークを介したキャッシュ支援

 現在のアフガニスタンにおいて、効果的な支援方法のひとつは、キャッシュ支援(給付金供与)である。

 例えばMTNというアフガンの通信会社は、Momoというモバイル送金サービスを展開する。このサービスを使うと、携帯網を使って電子送金ができ、アフガニスタン全土にいるMTNのエージェントからキャッシュを受取ることができる仕組みだ。支援団体とMTNの間では詳細な契約書を締結され、送金が滞ったり対象者に支援が届かなかったりするリスクをヘッジする。こうしたサービスは昨今、人道支援でよく活用されている。

 銀行セクターでは現在、週ごとに預金の5%しか引き出せないなど、資金の流動性には規制がかけられている。国際社会が制裁を課していることが大きな理由で、経済が破綻(はたん)する可能性も現実味を帯びてきている。

 一方、通信セクターは利用者が携帯電話の使用料を払ったりするため、一定の資金の流動性が確保できている。こういったサービスを活用すれば、困窮家庭に直接送金することも可能だ。我々支援団体側も、このような支援のインフラを整えてきた。人道支援は政治的な議論と切り離して考えることが重要である。

 日本でもコロナの給付金があったが、キャッシュでの支援は「それぞれの家庭の事情に応じて優先的なものに使える」利点がある。また、大量の物資を共有できるサプライヤーに依存しないため、地方の零細ビジネスを巻き込むことができ、経済活性化にも繋がる。

課題は山積み。日本の皆さんの支援に期待

 様々な支援方法を駆使し、まずは避難民が自分たちの村へ帰れるようにする。また、困窮している家庭がこの冬を越せるための食糧や燃料などを購入できるようにする。さらに、冬の寒さや飢えによって命を落とす人を最小限にする。

 今期作付けができなかったことから、食糧危機が長引くことも想定される。現在進行している干ばつから、中長期的にどう農業を復興するかも重要なテーマだ。干ばつや洪水などの頻発する災害への備えを強化しなければ、今後も人道危機が度々起きるだろう。課題は山積なのだ。

 今は、とにかく本格的な冬の到来を前に、手遅れにならないうちに越冬支援を行うことが肝要だ。私が共同代表を務めるジャパン・プラットフォームでも緊急支援の拡充を計画しており、キャッシュ、食糧、燃料など命を繋ぐ緊急的な支援を迅速に展開する予定だ。 また、本稿の冒頭でも紹介したが、私が事務局長を務めるCWS Japanも11月4日からでクラウドファンディング「緊急支援:アフガニスタンの生活困窮者が生き抜くために命を守っていく」を開始した。

 アフガニスタンの危機は、人道支援だけでは解決できず、政治的かつ経済的な側面からの介入も不可欠だが、現在餓死や凍死に直面する人々を救うためには、相応の資金が迅速に必要である。12月15日まで実施するクラウドファンディングで集まった資金をもとに、先述した携帯電話を使ったネットワークを介し、厳しい状態で生活している人々に対し、とりあえず2~3ヶ月生活するのに最低限必要とされる現金を配付したい。日本の皆様にも是非お力添えをお願いしたいと思っています。