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中国のビデオゲーム規制の「先見性」:年齢チェックという世界的潮流

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年8月30日、中国の国家新聞出版局(NPPA)は「未成年者(18歳未満の市民)のオンラインゲームへの依存を効果的に防止するための通知」を公表し、9月1日から施行した。これは法律ではなくNPPAがゲーム会社に遵守を求め、保護者にも協力を要請する方針にすぎないが、中国政府は児童保護を名目に思い切った規制を本格化することになるだろう。

 ある資料によると、18歳未満のゲームユーザー数は、現在1億1000万人程度とみられている。2020年に公表された別の資料では、2020年の中国のゲーマー人口は約7億2000万人で、18~24歳の97%以上、25~35歳の90%以上がゲーマーとされており、18%以上が週に30時間以上ゲームに費やしているらしい。

 1億人を超す未成年者へのオンラインゲーム規制とはどんなものか。この通知には、つぎの4項目が定められている。

 ①すべてのオンラインゲーム事業者は、この通知の日から、金曜日、土曜日、日曜日および法定休日の20:00から21:00までの1時間に限り、未成年者にオンラインゲームサービスを提供することができ、それ以外の時間にはいかなるかたちでも未成年者にオンラインゲームサービスを提供することはできない、

 ②オンラインゲームのユーザーアカウントの実名登録とログインの要件を厳守する(すべてのオンラインゲームは、中毒防止のため、国家新聞出版局のオンラインゲーム用実名認証システムに接続し、すべてのオンラインゲームユーザーは、実在する有効な身分情報を使用してゲームアカウントを登録し、オンラインゲームにログインする義務を負い、オンラインゲーム企業は、いかなる形式(ビジター体験モードを含む)でも、実名登録とログインをしていないユーザーにゲームサービスを提供してはならない)、

 ③各レベルの出版管理部門は、オンラインゲーム企業がタイムスロットの長さ、実名登録とログイン、標準的な支払いなどのオンラインゲームサービスの提供を実施しているかどうかの監督・検査を強化し、検査の頻度と強度を高め、法令に基づいて厳密に実施していないオンラインゲーム企業を重く処分する、

 ④家庭、学校、その他の社会関係者は、未成年者の健全な成長を促す良い環境をつくり、法律に基づいて保護者の義務を果たすよう積極的に指導し、未成年者のオンライン・リテラシーに関する教育を強化し、未成年者がオンラインゲームを利用する際には身元を確認するよう促し、未成年者がオンラインゲームを利用できる時間に関する規制を厳格に実施し、未成年者がインターネットを利用する際に良い習慣を身につけるよう指導する――などが定められた。

ゲーム依存症

 なお、中国における未成年者のゲーム依存症への対策は、規制当局が15年以上にわたって取り組んできたテーマであり、もともと2005年に最初の依存症防止システムが提案されたことがある(資料を参照)。2007年になって、中国はPCゲームに実名登録制度を導入した。この制度では、ゲームプレイヤーはID番号を使ってPCゲームのアカウントを作成する必要がある。未成年者であることが判明した場合には、1日のプレイ時間の制限など、アカウントレベルで様々な制限が課せられる。これは、「オンラインゲーム中毒防止システム」(疲労システム)と呼ばれるもので、一定の時間が経過すると、ゲーム内の報酬(経験値やアイテムドロップ率)が減少するという方法のことである。

 ただし、この方法がうまくいったわけではない。2019年11月、NPPAは「オンラインゲームにおける未成年者の依存症防止に関する通知」を発表し、未成年者がオンラインゲームをプレイできるのは、平日は1日1.5時間、週末や祝日は1日3時間に制限しなければならないとした。また、ゲーム運営者は、午後10時から午前8時までの間、未成年者にゲームを提供してはならない。8歳未満のプレイヤーのすべての支払い方法をブロックしなければならず、8歳以上16歳未満のプレイヤーは、1回の取引で50人民元以上、1ヶ月の合計で200人民元以上をゲームに費やすことはできない。16歳から18歳までのプレイヤーの制限は、1回の取引で100人民元、毎月400人民元だ。

 しかし、この施策の効果はほとんどなかった。だからこそ、新たな施策を8月に決めたのである。①一部のゲームでは、登録せずにビジターとしてプレイすることができ、時間制限の通知を受けることもない、②親のIDを使って登録するプレイヤーもいる、③実名や年齢などの情報を提供し、あるゲームで制限時間に達したプレイヤーであっても、簡単に別のゲームに切り替えてプレイを続けることができる――などの欠陥があるという(資料を参照)。

 ほかにも、2021年3月30日付で教育部が公表した「小中高生の睡眠管理のさらなる強化に関する通知」というものがある。「オンラインライブクラスのトレーニング活動は遅くとも21時までに終了し、毎日22時から8時までは未成年者向けのゲームサービスが提供されないようにしなければならない」と定められた。

 もちろん、規制しても抜け道は存在する。規制によって、悪影響が生じることもある(資料を参照)。いずれにしても、中国の取り組みは日本にとって大いに学ぶべき点が多いのはたしかだ。その「先見性」に敬意を払う姿勢が求められているのではないか。

「インターネット依存症」

 人口の多い中国では、多数の未成年者がオンラインゲームに明け暮れていることが当然、問題視されてきた。すぐに現象として問題化したのは近視の急増だ。2021年に発表した国家衛生委員会のデータによると、中国の子供と青年の近視の全体的な有病率は53.6%で、高校生では81%、大学生では90%であることが中国中央テレビの報道で明らかになったという(資料を参照)。

 パンデミック下で、中国では学校から家庭へ、オフラインからオンラインへと教育形態が移行した結果、重慶市では、この期間に近視の学生の割合が10.4%増加したという調査結果も報告されている。これは必ずしもオンラインゲームによる影響だけによるものではないが、近視の増加という問題が深刻化しているのはたしかなようだ。

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 加えて、「インターネット依存症」(Internet Addiction Disorder, IAD)という心の病も問題になっている。「インターネット依存症」とは、一般的には、強迫的インターネット利用(CIU)、問題的インターネット利用(PIU)、またはiDisorderと呼ばれている(論文「インターネット依存症」を参照)。IADは、1995年にアイバン・ゴールドバーグ博士が病的賭博と比較して風刺的に理論化したものとされている(資料を参照)。

 同論文によれば、米国精神医学会によって発行された分類学および診断ツールである精神障害の診断および統計マニュアルには、IADは正式な障害として認められていない。だが、欧米文化圏では、「一般人口の最大8.2%がこの障害に罹患しているという驚異的な数字が出ている」と指摘している。IADには、ゲーム、ソーシャルネットワーキング、電子メール、ブログ、オンラインショッピング、不適切なインターネットポルノの使用などへの中毒が含まれている。IADの多次元的な危険因子としては、身体的障害、社会的・機能的障害、情緒的障害、衝動的なインターネット利用、インターネットへの依存などがある。

 具体的な症状としては、うつ病、不安感、孤立感、焦燥感、恐怖、孤独感、腰痛、手根管症候群、頭痛、不眠症、ドライアイなどの視力障害――といったさまざまなものがある。その診断方法については、2005年に公表されたキース・バード著「インターネット中毒:現在の評価技術と潜在的な評価質問のレヴュー」に詳しい。

 治療法としては、問題の存在を認識することを第一歩としている。「コンピューターから完全に遠ざかることは効果的な是正方法ではないという点で、大多数の専門家の意見は一致している」という。専門家のなかには、IAD治療には薬物療法が有効であると主張する人もいる。他方で、「体を動かすことは、セロトニンレベルを高め、インターネットへの依存度を下げる効果があるとされている」らしい。ほかにも、グループ療法、レクリエーション療法など、さまざまの心理学的治療がある。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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