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「積極的疫学調査」にこだわった厚労省・医系技官の罪~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第二部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑥

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 日本に新型コロナウイルスが入ってきた昨年(2020年)1月、厚生労働省・医系技官は決定的に間違った対応をしてしまった。国際的な医学誌が無症状感染者の存在を報じる記事を掲載したのに、それに基づく対応をしなかった。

 無症状感染者が存在するのであれば、感染者の点と点を線で結ぶ感染症法の「積極的疫学調査」では、コロナ感染者の全体は掴めない。地引網的なPCR検査で全体を一挙にさらわない限り、感染者をあちこちに取り逃がしてしまう。

 ところが驚くべきことに、日本では最初に間違えたPCR検査のあり方を改めることなく、いまだに続けている。なぜこのような事態が続いているのか。連載企画「コロナ対策徹底批判」では上昌広・医療ガバナンス研究所理事長へのインタビューを通じて考えてきた。今回は、間違ったコロナ対策の背景にある厚労省・医系技官という存在、官僚のあり方にまで考察が及んでいく。

インタビューにこたえる上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

医系技官という存在

――無症状感染者の存在については、昨年1月24日に英国の医学誌『ランセット』が香港大学の研究チームの報告を掲載することによって全世界の関係者に通知・警告しました。

しかし、日本のコロナウイルス対策担当部署である厚労省健康局の結核感染症課は、感染症法に基づく積極的疫学調査の体制を変えませんでした。帰国者とその濃厚接触者だけを追うようなPCR検査体制はまったく意味がない対策なのですが……。

 さらにその6日後の1月30日には中国・武漢からの帰国者に無症状感染者がいることがわかり、結核感染症課の日下英司課長は記者会見を開きます。本来なら、この段階で当時の加藤勝信厚労大臣に相談し、感染症法を改正するか、超法規的な対応措置を採るかしなければいけなかった。まずPCR検査の体制を抜本的に変え、次に病院ではなくてホテルなどでの隔離を進めるという方に対策を転換するように進言しなければならなかったんです。なぜ、そうしなかったのか。日下さんをはじめとする厚労省・医系技官の大失敗ではないですか。

 黒ペンを持つ、つまり原案を書くのは医系技官ですから、素人の政治家の選択肢としてはそれをやるしかないわけです。日本の場合、メディアが医療行政の間違いを指摘したりチェックしたりしませんから、政治家は何もわからないわけです。

――厚労省の医系技官はなぜ対策を転換するように進言しなかったのでしょうか。

 最初はわからなかったんだと思います。これはある意味仕方ない。そして次に面倒だからです。

――武漢からの帰国者の中に無症状感染者がいることがわかり、記者会見まで開いている。であれば、「これはやばい。隔離のあり方を考えなければ、病院がパンクして医療崩壊を起こしてしまう」と考えるのが普通です。大臣に相談するしかないとなりますよね。
もちろん、その前に“医系技官ピラミッド”のラインで対策を練るでしょうが、最終的にはそういう動きにならざるをえないと思いますが……。

 日本独特の「医系技官」の問題は、世界的にも珍しい「抑制されてしまったPCR検査問題」をメインテーマとする第5部で詳しく掘り下げるが、ここで概略的に触れておく。

 大学の医学部を卒業した「医師の卵」たちは三つのコースを歩む。一つは臨床医、二つ目は研究職、そして三つ目に厚労省の医系技官だ。医系技官は通常の国家公務員キャリアと違って、国家公務員試験を受ける必要がなく医師免許さえ保持していればいい。

 厚労省には現在300人足らずの医系技官がいるが、通常のキャリア組とはまったく異なる人事ピラミッドの中を昇進していく。

 エース級は医療保険を扱う保険局や医師不足問題に取り組む医政局に向かうが、感染症を扱う公衆衛生部門は格下と見られている。公衆衛生部門に所属する医系技官の主要な天下り先には保健所長がある。この保健所が後々大きい問題となってくる。その一方、医学部を卒業した「受験秀才」であるため、文系を卒業した通常のキャリア組を見下す面がある。厚労省の中では、医系技官と通常キャリア組の間に“溝”があると言われている。

 医系技官は基本的に医学専門家です。厚労省では、法令キャリアと言われる官僚が法律を管理しているんですが、医系技官は大体予算措置で行政を進めるんです。そういう時によく出てくるのは、モデル事業とか研究班とかというものです。

 予算措置というのは、ある意味でものすごく使い勝手がいいんですね。誰にいくら予算をつけるかを、役人が勝手に決められるからです。これが御用学者が育ちやすい環境を作っちゃってるんですね。

 厚労省の健康局結核感染症課というのは、局長も課長も医系技官です。そして、医系技官と事務官というのは人事交流しない。まったく別のグループに所属していて、実を言うとお互いに苦々しく思ってるんです。縦割りなんですよ。

守るべきは積極的疫学調査

 無症状感染者がたくさんいるコロナウイルスの問題に直面した時、事務官たちがまず実行するやり方は、すぐに感染症法を改正することはできないにしても、政省令ないし通知をきっちり書き換えることだったんです。

 だけど、事務官たちがこれをやった場合にまず何が起こるかと言うと、彼らは法律の観点から横との整合性を見るんです。もちろん後で内閣法制局は見るし国会は特に見る。将来の法令キャリアもよく見てチェックするわけです。

 その時に問題になるのは、国立感染症研究所がやっている「積極的疫学調査」です。無症状感染者がそんなに多くいるんだったら、積極的疫学調査なんて意味がないじゃない、となるわけです。

 無症状感染者が前提になるんだったら、感染者と濃厚接触者を一生懸命探す積極的疫学調査は何の意味もないじゃないか、と誰もが気が付くんですよ。医系技官たちは、たぶんそこが一番心配になった。なぜなら、

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