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「刷新」「改革」への期待に応えられなかった立憲民主党~衆院選敗北の真因

刷新」担った自民党が勝ち、「改革」の受け皿の維新が躍進。野党共闘はどこへ……

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

 衆院選を受けた特別国会が10日に開かれ、当選をした議員たちが初めて登院。首相指名選挙では岸田文雄首相が第101代首相に選ばれ、第2次岸田内閣が発足した。

 それにしても、今回はあからさまな審判が出た衆院選だった。与党にではなく、野党連合をくんだ立憲民主党に、である。

圧倒的にマイナスの評価を受けた立憲民主党

 そもそも今回の選挙は、前の衆院選から4年間、ひいては第2次安倍晋三政権の以来9年近くに及ぶ自公連立政権への審判、▽新首相である岸田文雄氏への期待、▽立憲民主党をはじめとする野党に対する審判――という三つの要素が入り組んだ総合的な判断となるものだった。

 結果は、周知のとおり、自公の与党は勢力をほぼ維持、岸田政権は事実上、信任された。野党は、立憲民主党は惨敗、共産党も議席を減らすという厳しい結果になった。

 与党から逃げたのは改革票である。それは、野党と一線を画した日本維新の会を利した。逆に戻ってきた票があるとすれば、スキャンダルを厭い安倍政権に疑念を持つ層の一部が、岸田政権への交代に伴って、回帰したのであろう。そして、圧倒的にマイナスの評価を受けたのは立憲民主党だった。

 史上初めて衆院小選挙区で野党共闘を実現した立憲民主党は、議席を増やすことが当然視されていた。政府のコロナ対策や安倍政権のスキャンダルで高まる有権者の不満の受け皿として、野党共闘が機能を発揮して党勢の拡大をもたらすはずであった。

 いったい何がまずかったのだろうか。そう思っている野党支持者は多いだろう。野党共闘の統一候補に効果があった選挙区は確かにある。しかし、比例票は明らかに離れている。4年前、希望の党に投じられた票の大部分が維新に向かったのは明白だ。さらに、事前調査で接戦とされ、与党候補が野党候補を追う展開にあると報じられた幾つもの選挙区で、予測と異なる結果が出たことには、何らかの説明が必要だろう。

 本稿では、今回のあからさまな審判に至った背景や原因、将来の見通しなどについて、あらためて考えてみたい。

衆院本会議で首相に指名され、一礼する自民党の岸田文雄総裁(中央)=2021年11月10日

「与党大勝」の予測を出した朝日新聞

 すでに分かっている“ヒューマンエラー”のひとつは、選挙情勢の予測に関して、各メディアが長年の“経験値”、その他の要素を踏まえて、元の数字を補正したそのプロセスに間違いが潜んでいたということである。

 これは多くのメディア関係者が認めるところだ。出口調査も含め、膨大なお金が注ぎ込まれてきた情勢調査だが、近年では経費節減の要請から、幾つかの社がグループを作って共同で調査を委託。共通のデータを基に各社が分析している。結果が違うのは、各社の補正の仕方が違うからである。

 そんななか朝日新聞は、選挙戦の中盤で、誰しもを驚かせるような「与党大勝」の予測を出した。小選挙区はインターネット調査、比例区はRDDによる電話調査を実施。電話調査をもとにネット調査の数字を補正して小選挙区の勝敗を予測したとのことだが、個別の選挙区はともかく、全体の傾向は当たった。ここから二つの推論が導き出せるのではないか。

 ひとつは、ネット調査の信頼性が高まってきたということだ。わたしもこれまでネット調査を行う機会が多かったが、ネット調査は政党支持率を見ても、電話調査より比較的安定した数字が出る傾向にある。その時々の雰囲気に流されやすい電話での応答に比べ、落ち着いた答えが出るのかもしれない。

 原因は断定できないが、ネット調査には、集中して落ち着いた状態で本音の選択ができる環境があるのではないかと思う。回答する際のユーザーインターフェースは齟齬が少なく直観的であるし、質問をする相手がいる(昨今は自動音声が相手のケースも増えたが)ことで、秘密を開示している感じがする電話での応答に比べて、答えやすいのではないかと感じることは少なくない。

 もうひとつは、今回の選挙の雰囲気が、非常に落ち着いたものであったということである。岸田政権が本格稼働していなかったこともあり、時々の空気で政権与党の評判が上げ下げされる風潮は見られず、コロナ禍もひとまず落ち着き、政府の対応をとやかく言われることはなかった。結果的に与党に逆風は吹かず、民意の安定した部分がすんなりと調査結果に反映されたのではないか。

野党優勢の“空気感”は「エコーチェンバー」

 ところが、朝日新聞の調査結果が出た直後から、SNSでは、与党に厳しい予測を出している朝日以外の新聞各紙が正しい、朝日の調査はおかしいといった主張がハッシュタグとともに飛び交い、あたかも野党が優勢であるかのような“空気感”をつくりあげた。結果的に与党が大勝した現状を踏まえれば、この“空気感”は野党の優位を願う政治家や一部の有権者の間で生じた「エコーチェンバー」に過ぎなかったことになる。

 立憲民主党が受け止めなければいけない第一の教訓は、この点である。SNS上ではすでに、野党連合は健在という雰囲気を盛り上げようとする支持者が目立っているが、これではますます一般人の支持を遠ざける結果になるのではないか。

現体制での最後の執行役員会で発言する立憲民主党の枝野幸男代表(左)=2021年11月9日、国会内

「足し算」が成立しなかった野党連合

 2017年秋、衆院選の直前に旗あげした立憲民主党には当初、“判官びいき”もあって多くの支持が寄せられた。

 当時、小池百合子都知事が仕掛けた希望の党が巻き起こした旋風と民主党の流れをくむ民進党の瓦解、希望の党への支持が失速した後、立憲民主党が判官びいきの票も集め、最小議席の野党第一党になった背景には、野党全体の影響力の失墜があった。にもかかわらず、与党の大勝は旧民主党勢力の票が割れた結果にすぎない、というのが、大方のリベラルな人々の見解だった。

 それは、野党が組めば巻き返せるはずだ、という意見につながっていった。その意見は部分的には正しいが、大きな陥穽(かんせい)があった。

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