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敵基地の攻撃能力は、日本にあるか

現実的な反撃能力に関する活発な議論を

山下裕貴 元陸将、千葉科学大学客員教授

敵基地攻撃能力に関する日本政府の見解

 政府は10月19日、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて国家安全保障会議を開催し、その後の記者会見で岸田首相は「国家安全保障戦略などの改定を指示した。いわゆる敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を検討するように改めて確認した」と語った。また、岸田首相は24日のNHKの討論番組で「ミサイル技術は年々進化している。国民の命や暮らしを本当に守れるのか、政治はしっかりと考えていかなければならない」と強調し、敵基地攻撃能力を選択肢の一つと重ねて指摘している。

2021年10月19日、新型の潜水艦発射断層ミサイルの試射。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信2021年10月19日、新型の潜水艦発射断層ミサイルの試射。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

 10月31日に行われた衆議院議員総選挙において自民党は単独で安定多数を獲得した。この安定した政治基盤の下で、これから国家安全保障戦略や防衛計画大綱の策定作業が本格的に行われ、敵基地攻撃能力の保有についても議論が展開されるものと思われる。

 敵基地攻撃能力の保有についての政府見解は、1956年の鳩山一郎首相の「我が国に対して誘導弾等による攻撃が行われた場合(中略)、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であると思います」という答弁を根拠に保有は可能だとしている。

「敵基地攻撃能力」は日本にあるのか?

 そこで敵基地攻撃とは何かについて考えてみたい。この答弁をそのまま読むと、誘導弾等の攻撃を防御するのに他に手段がない場合には、敵の誘導弾等が発射される前にたたくことが必要となる。

 今の日本の能力で敵基地を攻撃することは果たして実際的に可能だろうか。この攻撃能力について軍事技術と法律の両面からみてみたい。

北朝鮮の弾道ミサイル発射後、記者団に答える岸田首相(10月19日撮影)北朝鮮の弾道ミサイル発射後、記者団に答える岸田首相(10月19日撮影)

 まず軍事技術面から見ると、弾道ミサイル発射台を攻撃し破壊するためには、精度の高い目標情報(発射台の位置)の入手が必要不可欠である。鳩山答弁の1956年当時の軍事技術と現代の軍事技術とでは格段の差がある。当時のミサイル技術は第二次世界大戦末期に開発されたドイツのVロケットをモデルに米ソが中心となって弾道弾の開発競争を行っていた時代であり、発射方式も固定式が多くを占めていた。この当時の敵基地への攻撃は航空機により敵の防空網を突破し基地施設や弾道ミサイル発射台を破壊することを想定していたと思われる。

 しかし現代では弾道ミサイルは固定式に限らず、車両や鉄道による移動式発射台や潜水艦から発射されるものもあり、その発見は情報収集能力の高い米軍ですら極めて困難な状況になっている。

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