大物の落選、立憲の惨敗、維新の躍進は想定外の事態だったのか……
――御厨さんの問題提起を政党の現場から見るとどうですか。自民党担当の野平さん。いかがでしょうか。
野平 今回の衆院選は、投票日直近の情勢調査でも与野党がギリギリ競り合っている選挙区が多かった。そこで勝ち切れたことで、自民党は絶対安定多数を獲得できましたが、選挙中に自民党に不利に働くような問題が発生していたら、違う結果になっていたかもしれません。公示前から議席を減らしてもおり、「自民党が勝利した」というのはどうかなと思っています。
印象的だったのは、自民党幹部が応援演説で「今回は政権選択選挙にとどまらず、体制選択選挙である」と強調したことです。共闘した野党が勝てば、共産党が政権の中に入ってくる危機があると、声高に叫んでいました。野党共闘への危機感の裏返しだとも思いますが、「体制選択」という意識は国民にもあったのではないか。それが「第3極」の維新の議席増につながったと見ています。
――立憲民主党の敗北について担当の吉川さんはどう見ていますか。
吉川 ある種の「楽観論」が立憲民主党にあることは感じていました。メディアの情勢調査も、朝日新聞は厳しかったですが、それ以外は「議席を増やす公算が大きい」としたメディアが多く、ある党幹部は終盤でも「140議席はとれる」と言い、比例も「50議席は固い」と言う声がありました。実際は39だったですが……。
野党統一候補が政権への批判票の受け皿になっているという手応えを、党幹部は感じているようでしたが、結果は福山哲郎幹事長が「夢にも思っていなかった」という現有議席割れ。自民党が危機感をもち終盤でテコ入れをしたのに対し、野党には小選挙区で負けても比例で復活当選できるという「緩み」があったように感じました。
――メディアの情勢調査を見ると、朝日新聞は与党が絶対安定多数を超えると予想していましたが、他社の調査だと自民党が単独過半数とれるかどうかという予想が多かった。立憲も議席の上積みは確実と予想していたので、立憲幹部が楽観的になったのも致し方ない気もします。松本さんは今回の衆院選をどう見ますか。
松本 やはり自民党が接戦を制したのが大きかったと思います。競り勝った経験は議員の自信を強めることになるのか、逆に選挙が厳しかったことで、いっそう自民党に頼ることになるのか。現場はどう見ているのでしょうか。
野党共闘についてですが、共闘するために政策の軸を微妙にずらしたことが、「中道」の維新や国民の議席の伸びにつながったと思います。ただ、小選挙区で野党が過半数の議席をとるためには、共闘が必要なのも事実。立憲はこの矛盾をどう解決するのでしょうか。
もうひとつは世論調査です。今回は情勢調査も出口調査も各社で結果が割れました。アメリカでは選挙予測が難しくなっていますが、日本でも選挙の予測調査が難しくなってきているのでしょうか。
――私は世論調査の経験が長いので、松本さんの最後の疑問についてお答えします。今回は各社とも新しい方法で情勢調査を実施しました。なかでも朝日新聞は、小選挙区をネットのパネルで調査する画期的な手法で行いました。幸い朝日はほぼ的中させましたが、過去のデータが乏しいなか、厳しい調査でした。今後、新しい方式で国政選挙の調査を続け、データが集まれば、安定性も増すと思います。
それはさておき、自民党が接戦で勝利したことについて議員はどう感じているのでしょうか。
曽我 選挙後に会った関東圏の小選挙区で競り勝った自民党議員が口にしたのは、「このままでは来年夏の参院選は危ない」という危機感でした。今回は全国で自民党の大物議員が幾人も落選していますが、「先生を落としてはいけない」というコアな支持者をどこまで動員できたかが勝負を分けたと、実感を込めて語ってもいました。
興味深いのは、彼も含めて激戦を戦った若い議員がみな、自治労や日教組といった官公労の動きが極めて鈍かったと感じていることです。戦後の労働運動で共産党と対立してきたのは、「右」ではなく「左」の自治労などの官公労。立憲が伸びきらなかった理由のひとつに、官公労の動きの鈍さがあったという指摘はおもしろいと思いました。
野平 私も激戦区で競り勝ったことで自信を持つというより、むしろ危機感を強めている議員のほうが多いと思います。ある議員は「自民党も(立憲)民主党も飽きられている。有権者は新しいものを求めている」と言い、自民党も変わらないとまずいことになるという危機感を抱いていました。逆に言えば、立憲が今回、民主党の匂いを消すような代表選をしなければ、自民の脅威にはならないということも言っていました。