単なる選挙戦術の野党共闘は再考を。有為な新人材は将来への基盤となる
2021年11月18日
この政権は、日本の対外関係の安定と強化、安全保障体制の整備など一定の成果を上げたと思われるが、他方、政権の長期化によるおごりと世論軽視の態度を増大させ、多くの国民の不満は高まって、内閣支持率は菅政権末期においては20%そこそこという危機的レベルまで下落し、その後の岸田政権誕生後も低迷を続けた。
その中で今回行われた総選挙において、一部野党は「すわ、政権交代選挙」と色めき立ったが、結果は自由民主党が議席数は減少させたものの、単独での絶対的安定多数(261議席)を確保する一方、立憲民主党は大方の想定に反して議席を減らす結果に終わった。
今回の選挙で野党4党が、鳴り物入りで全国の計217の選挙区で候補者を一本化した野党共闘は、所期の成果を上げることができなかった。
数字で見ると、立憲が勝利したのは57名で、公示前から9名増えたが、比例区では62名から39名へと激減した結果、差し引き14名の減少となった。他の野党4党は共産党以外は減少しておらず、今回の野党共闘は、主導した立憲と共産の大敗北と言わざるを得ない。
この結果、野党共闘の勝率は28%に過ぎず、小選挙区において幅広く勝利につながったとは到底言えない。
例えば東京8区で自民党の派閥の領袖(石原伸晃氏)を相手に戦った野党統一候補者(吉田晴美氏)は、前回の選挙において共産党候補者が同区で得た得票数をはるかに上回る大差で勝利したのであるから、野党共闘の恩恵を受けたというよりも、日常の地道な努力(例えば、パソコンに不慣れな飲食店主の給付金申請を手伝うなど)が結実した勝利と言えよう。
立憲民主党が今回惨敗した比例区については、全国での獲得票数が、前回の選挙で立憲と希望の党の合計票の半分余りの1150万票に過ぎなかったが、これは野党共闘の負の部分の表われである。
具体的には二つの要素に分けられる。一点目は、共産党との連携を嫌った多くの立憲支持者の票が、維新、国民、れいわなどに流れたこと、二点目は、共闘政党が小選挙区の候補者をおろす代償として、立憲の候補者自身が、「比例では他の共闘政党への投票を要請した」ことである。
具体的な例として、東京7区を見てみたい。この区の野党統一候補(立憲民主党公認)は、小選挙区で前回よりも7千票多い12万4千票を得たが、立憲がこの選挙区で得た比例票はその半数以下の5万7千票に過ぎない。立憲は、この選挙区の比例選挙では、獲得した票数以上の規模の票を他党に奪われたことになる。
全国的に見ても、立憲の比例区得票数は、小選挙区得票数より570万票も少なく、「立憲票の比例からの逃げ出し」現象が、野党共闘の行われた全国のいたるところで起きていたのである。
以上の諸点を踏まえると、今後、二大政党制を目指すのであれば、今回のような形の、単なる選挙戦術としての野党共闘は再考すべきではなかろうか。
今回の選挙に身近に接して、関係者ともいろいろ議論したことの一つは、小選挙区制が少数政党に不利に働くことを緩和する制度としての比例並立制はそれなりの意義を有するが、世界に類を見ない「比例復活」という敗者復活制度はどう考えても合理性を見いだせないことである(なおドイツは小選挙区比例併用制だが、主である比例代表制に、小選挙区制を加味した制度であるので、比例復活制という概念とは異なる)。
これは有権者が、投票を通じて落選の烙印を押した候補者を復活当選させるものであり、国民の意思を無視した制度と言わざるを得ない。
衆議院の定数465の内訳は、小選挙区289に対して比例区176であるが、今回の比例当選者の区分は、比例単独が46名に対して、小選挙区敗者による復活が比例全体の74%を占める130名にも達している。何のことはない、これは少数政党救済に名を借りた「失業対策」に過ぎない。
また比例復活当選者の政党別内訳は、自民が56名、立憲が39名である。この数字のみからは、比例復活制度が特にどの政党に有利なものかは判断しにくいが、今回の選挙でこの制度から最大の恩恵を得たのは自民党であったことは否定できない。
現行の比例区の単独指名制度もまた問題が多い。
今回の選挙で東京都においては200万人が比例区で自民党に投票した。この中で自民党の比例東京ブロック単独第1位指名の候補者名を知って投票した人が果たして何人いたであろうか。
その候補者は北区(東京12区)を地盤とする比例区(前回は単独25位で最下位当選)の自民党現職議員である。これまで自公の統一候補として当選してきた公明党の太田代表が引退して、その後に今回、無名の公明党候補者が立候補するに当たり、自民党本部は地元の関係者を納得させるために、この現職議員が間違いなく比例で当選できるよう単独1位に指名したと推測されている。
立憲と維新を除く各政党は、比例の各ブロックで単独上位指名を行っているが、今後は当選条件として、有権者の一定数以上の支持を必要とする制度を検討すべきではなかろうか。
単独指名制度は、衆議院選挙の比例区が参議院選挙とは異なり、拘束名簿方式(即ち当選順位が党内で予め決まっている)を採用していることに起因するものである。
この方式を変更して、衆議院の比例区を、ブロックごとの非拘束名簿方式(即ち、候補者の氏名または政党名を書き、個人の得票順に当選を決める)とすれば、比例区が国民の意思を尊重し、選挙戦術のために利用されることが避けられる。しかしながら、候補者名を書く非拘束名簿方式では、その候補者と同一ブロック内の比例復活候補者との間で順位を付けられないので、この両制度は併用できない。
ということは、衆議院の選挙制度を合理的なものにするためには、比例区は復活当選制度を廃止し、かつ、非拘束名簿方式とすることが最も望ましい。それができない場合には、中選挙区制への回帰を検討せざるを得ないと考える。
筆者は、今回総選挙で、野党から若くて有能な政治家がより多く誕生し、将来の政権交代の受け皿としての基盤を構築することが望ましいと考えていた。そのような中で、安保政策研究会(政治・安全保障に関心の高い政治家、ジャーナリスト、官僚、学者ならびにそのOBなどの組織)の仲間の一人が、一主要政党の公認候補者として立候補したので、個人的なボランティアとして選挙の手伝いをした。
本稿では、この体験もふまえ、政党制や選挙制度への私見を述べてきたが、選挙の情勢調査についても記しておきたい。
選挙戦では、各政党本部とも頻繁に選挙区ごとの情勢調査を行い、各候補者ともそれを参考として具体的戦術を立てている。この情勢調査は候補者にとっては貴重な情報であるが、この内容は一般の有権者にはわからない。有権者が状況判断の参考にするのは、各メディアが行う選挙情勢の調査しかない。
なぜ予測と実際の結果の間にこのような乖離が生じるのかは慎重な検討を要するが、一般の国民は新聞は一紙しか読んでいない人が多いので、それだけを頼りにして投票の判断を誤ることともなりかねない。
もしそれが無理であれば、世論調査の本家本元である米国において大統領選挙など主要選挙の際に、各メディアの調査結果の平均値を計算して報道しているリアル・クリア・ポリティクスのような役割を何らかの機関に持たせることも一案と考える。
今回の衆議院選挙の帰趨を決めたのは、明らかに野党共闘の成否、具体的には共産党との協力の在り方であった。
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