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深刻化するデジタル暴力 被害者の多くは女性 背後に性差別的な社会構造

国連人口基金が「#STOPデジタル暴力キャンペーン」を実施

伊藤和子 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

人権侵害を招かない自主ルールを

――現行の法律は、いわゆるデジタル暴力の被害から個人を守るものになっているのでしょうか。

伊藤 法務省の法制審議会では、侮辱罪の法定刑の引き上げと、公訴時効の延長が議論されています()。

〈注〉ネット上の誹謗中傷が社会問題化しているのを受け、法制審議会は10月21日、「侮辱罪」を厳罰化するための法整備について法相に答申した。 侮辱罪の法定刑は現在30日未満の拘留、または1万円未満の科料だが、法制審議会の答申では、侮辱罪の法定刑に1年以下の懲役・禁錮、または30万円以下の罰金を加え、公訴時効も現在の1年から3年に延ばすとしている。

 法定刑の引き上げもさることながら、公訴時効の延長が重要だと思っています。被害を受けてからオンライン上の加害者を特定するのには時間がかかる。1年では到底起訴できないからです。

 厳罰化が表現の自由を萎縮させるという指摘もがありますが、ネット上の誹謗中傷は人に多大なストレスを与え、自殺に追いやったり、長期の精神疾患に陥れたりするなど、その効果は甚大です。法定刑を引き上げ、公訴時効を延長する措置は妥当だと思いますね。

 プラットフォーム事業者に対して、もう少し強い義務を課すという方向の議論も必要だと思います。ヤフーが、記事への意見や感想を書き込めるコメント(ヤフコメ)について、AIで監視したり、誹謗中傷、差別、わいせつなどに当たる「違反コメント」が一定数を超えると、記事のコメントをすべて非表示にする動きはありますが、業界全体でルールを確立するというところまではいっていません。

 刑罰については、ある程度慎重に考えることが必要だと思いますが、業界の自主ルールに関してはプラットフォームやネットを運営する側が、人権侵害を招かない防止策を広めにとってもらいたい。デジタル暴力についての明確な指針を定め、それを前提に利用してくださいと言うこともできるでしょう。被害者を守るという、より強い役割を期待したいですね。

――オンライン上の暴力には、誹謗中傷、嫌がらせ、ストーキング、なりすまし、さらし、リベンジ・ポルノなど、様々なものがあります。全体を包括する「名称」がなかったので、国連人口基金としては「デジタル暴力」、略して「デジ暴」という名称を広め、こうした行為は許されないことだということを人々に知らしめたいという狙いがあるようです。

伊藤 いいと思いますね。悪質な暴力であるということを明確に示すという意味で、本質を捉えています。これまでも、性的な画像等をネットにアップされてしまう事案を「デジタル性暴力」と呼び、現実の性暴力にもまして深刻な性暴力であるということを訴え、法整備を求める取り組みが進められてきました。それとも平仄が合っているようで、心強く思います。

拡大mmstudiodesign/shutterstock.com

女性の被害に遭うケースが多いワケ

――デジタル暴力では、女性が被害に遭うケースが多いと言われます。国連も女性に対するオンライン上の暴力の根絶を強く訴えています、日本の現状はどうでしょうか。

伊藤 日本も同じですね。背後に性差別的な社会構造があると思います。声を挙げる女性、従来の男性中心の社会規範から逸脱していると見られる女性、権利の行使を高唱する女性などへのバッシングは強い。こうした風潮は、個人を傷つけるだけでなく、社会全体の空気を閉塞させ、社会をよりよい方向に変えようという芽を摘む。未来に対する大きな損失です。

 2015年に安保法制に反対する学生団体「SEALDs」の女性メンバーへの誹謗中傷があり、その裁判をお手伝いする過程で、被害のひどさを実感しました。彼女たちの行動を快く思わない人たちが、ネット上に誹謗中傷を書き込んだのですが、ほんとうに卑劣だと思いました。

 ネット上で好奇の目にさらされることは、若い人に深刻な精神的な影響を与えます。内容が性的なものであったり、侮辱的なものであったりすれば、数年単位のトラウマにもなります。さらに、事実に反する誹謗中傷がネットに流れると、就職にも差し障りがでます。将来にわたって、被害者の名誉がなかなか回復しない一方で、誹謗中傷をした人は与えた傷に見合った責任をとる形になっていない。非常に不均衡です。

 もちろん、これは日本だけの現象ではありません。世界でも、女性のジャーナリスト、女性の政治家、女性の弁護士の人権活動家、フェミニストといわれる人たちが、標的になりやすいと5、6年前から言われています。

――欧州ではヘイトスピーチに対して厳しい法律が制定されていますね。

伊藤 「女性に対するヘイトスピーチ」とも言われますが、女性が女性の権利などについて活動すると、ヘイトスピーチをされるというような例が、欧州でも相次いでいます。心配なのは、オンラインの暴力とオフラインの暴力が一体化してきていることです。オンラインの誹謗中傷が続くと、それを契機に殺害予行や実際の危害に結びつくケースがあります。

 たとえばイギリスでは2016年、EU離脱にからみ、残留派の女性国会議員が殺された事件がありました。彼女はオンライン上で盛んに発信し、オンライン上のハラスメントにあったあげく、殺されました。

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筆者

伊藤和子

伊藤和子(いとう・かずこ) 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです