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立憲の新代表に求められるのは路線転換ではなく、民主主義の再生だ

綱領実現への精度を高め、人々を「投票」へいざなう政党へ

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

現行選挙制度が想定する役割を与野党が初めて果たした

 筆者は、新たな民主主義的な課題が先の総選挙であらわになったと考えている。これは、日本独特の課題である一方、他国においても発生しうる課題である。まだ学術的な仮説にまで発展させられてはいないが、本稿において問題提起する。

 先の総選挙の特徴は、1994年に大きく変えられた現行選挙制度で期待された役割について、主要政党が初めて果たしたことにある。一定の政策合意を基にして、自民党を中心とする与党ブロックと立憲民主党を中心とする野党ブロックに分かれ、双方が大規模な候補者調整を行い、小選挙区制が期待する役割を果たした。与党ブロックが全面的な候補者調整を行った一方、野党ブロックは接戦区を中心に候補者を調整した。日本維新の会は、与党ブロックの公明党と主たる地盤の近畿圏で候補者調整を行い、結果的に与党ブロックへの「限定的な閣外からの協力」状態となった。

 また、小選挙区はもちろんのこと、比例区においても、ブロック内の政党間の批判は抑制され、もっぱら与党ブロック対野党ブロックの構図になった。維新の会も、自民党のことは批判しても、公明党の批判をする場面は見られなかった。むしろ、維新の会の野党ブロック批判が目立っていた。

 要するに、現行選挙制度の施行から四半世紀を過ぎて、初めて制度が想定する与党対野党の構図を中心とした選挙になったのである。不完全な部分や例外は多数あったものの、大勢としてその構図になったことは間違いない。

 総選挙の争点においても、従来の政府与党への信認という争点に加え、目指す社会像という国家方針の違いが打ち出された。前述したとおり、与党ブロックの「国家重視・自己責任」の国家方針と野党ブロックの「個人重視・支え合い」の国家方針が争われた。実際、岸田首相の「成長なくして分配なし」と枝野代表の「分配なくして成長なし」の違いは、大きな争点となった。

アベノミクス検証委員会であいさつする立憲民主党の枝野幸男代表(左)=2021年9月14日午後、国会内、北見英城撮影拡大アベノミクス検証委員会であいさつする立憲民主党の枝野幸男代表(左)=2021年9月14日午後、国会内、北見英城撮影
衆院本会議場で、所信表明演説をする岸田文雄首相=10月8日午後2時3分、国会内、角野貴之撮影拡大衆院本会議場で、所信表明演説をする岸田文雄首相=10月8日午後2時3分、国会内、角野貴之撮影

 以上のとおり、小選挙区を中心とする選挙制度が想定した役割を政党が果たしたことで、日本の議会制民主主義において新たな課題が浮かび上がったと考えている。なお、小選挙区を中心とするとの含意は、定数465のうち小選挙区が289を占め、比例区も11ブロックに分割され、小選挙区での得票を反映する重複立候補が認められているため、小選挙区が主、比例区が従という制度的な関係にあることを示す。

 その課題とは、選挙に際しての有権者のバイアスである。バイアスといっても、差別や偏見という意味ではない。行動科学的な意味でのバイアスである。

 その説明をする前に、今回の選挙結果を確認しておこう。以下で用いる選挙結果は、総務省の「衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果」の比例区結果に基づく。

 今回の2021年総選挙の投票率は、全国平均で55.92%であった。前回2017年総選挙の投票率は53.68%であり、2.24%の上昇となった。一方、自民党から民主党に政権交代した2009年総選挙の投票率は69.27%で、その前回の2005年総選挙の投票率は67.46%であった。2009年総選挙と今回の2021年総選挙の投票率の差は13.35%であった。

 率でなく実数で見ると、2021年総選挙の有権者数105,320,523人で、投票者数58,893,807人、棄権者数46,426,716であった。政権交代した2009年総選挙では、有権者数103,949,442人で、投票者数72,003,538人、棄権者数31,945,904人であった。両選挙の間に選挙権が18歳に引き下げられたため、単純に比較するのはいささか不適当ではあるが、大雑把にいえば1300万人もの有権者が投票しなくなったことになる。

 これまで、投票率が低下する原因の一つとして、対立構図と争点の不明確さがしばしば指摘されてきた。その論拠として、政権交代した2009年総選挙が示され、政党、特に野党が対立構図と争点を明確にすることが投票率を高めるために重要と指摘されてきた。野党が乱立した2015年、2017年総選挙の低投票率も、そうした指摘を補強してきた。

 しかし、

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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