ガソリン価格高騰にはガソリン税停止と緊急5円値下げのミックスで対応せよ
生活を圧迫するガソリン価格の160円超え。政府はガソリンのトリガー条項の解除を
酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授
ガソリン価格が160円を超えて約1カ月になり、国民の生活がじわりと圧迫されている。
結論から言おう。政府は、東日本大震災の時に凍結されたガソリン税のトリガー条項(160円以上が3カ月続いたらガソリン税の暫定税率として25.1円分を一時停止する条項)を今こそ解除すべきである。可能なら、3カ月を1カ月に短縮すべきだ。
今の日本にできることは……
残念なことに、日本の産油国に対する増産や対日輸出増加の希望はいまだに通らず、世界最大の産油国である米国は(カーボン・ニュートラルを進めるバイデン政権だからなのか)シェール・オイルの増産が遅れている。今の日本にできることは、米国に対して価格安定に資するようにシェール・オイルを増産することを求めるか、日本独自にガソリン価格を引き下げることの二つが残されているだけである(米国による備蓄している原油の放出に合わせた日本の原油備蓄の放出については後述)。
正直言って、前者は期待薄である。とすれば、政府は既に日本政府が打ち出した緊急的な5円値下げ案と、トリガー条項の廃止・期間短縮の「ポリシー・ミックス」で、国民を支援するべきではないか。

地方にあるガソリンスタンドの看板。ガソリンも灯油も値上げ傾向が続いているという=2021年11月24日、岐阜県高山市内
ガソリン価格の思い切った値下げを
昨春からのコロナ禍に対して、日本政府は様々な支援策を行ってきた。日本に住む国民すべてに対する10万円給付から、コロナの影響が深刻な宿泊・飲食業を中心とした企業への一時給付金など、昨年度は補正予算を3回組んで救済につとめてきた。
現在は、18歳以下の子供がおり主な稼ぎ手の収入が960万円未満の家庭に10万円を支給するのが、それが社会の必要に沿ったものかどうかで揉めている。意見は様々だが、国民に何らかの支援をしようとする考えでは、全政治家は一致している。
そんななか、目下の喫緊の課題は、ガソリン価格が1年前の120円程度から160円を超えるまでになったことへの対応だろう。これによって、車の使用が不可欠な地方で暮らす人、コロナ禍で生きるために車を使わざるを得ない人たちを、助けることが必要だ。
そのためには、ガソリン価格の思い切った値下げが有効である。日本政府が打ち出した5円の値下げは手っ取り早いので早速導入し(ただし、ガソリン代の値下げではなく購入者への補助金として扱う)、同時にガソリン税のトリガー条項を廃止して(かつトリガー発動のための期間を短縮して)、近い将来も高騰が続いた場合には25円分のガソリン税の一時停止を行い、合計で実質30円のガソリン代値下げを図ることが適当だろう。そうでないと、大型経済対策で拠出される給付金が、ガソリン代高騰の埋め合わせに使われてしまう支離滅裂なことになってしまう懸念があるからだ。
日本政府の対応は今のところ、緊急性のある「一時金(=5円の値下げ)」ですべてを賄おうとしている感じだが、それは是としたうえで、税率の引き下げや米国の大型予算のような、向こう10年間の財政出動という長い目での対応(今回はトリガー条項の廃止)をするのが国民の目線にたった政策だと思う。
ちなみに5円の実質値下げが手っ取り早いというのは、矢野康治財務次官が『文藝春秋11月号』で指摘したように、今年の4月時点で未使用となっている30兆円の予備費がまだ存在するので、それを使えば法律等の策定時間を飛ばすことが可能だからだ。