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ステーツマンシップを取り戻せ~目先の利益を離れ、真の国益のための政治を

総額ありきの経済対策、機能不全の外交――民主主義本来の姿に立ち戻るよう願う

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

 ステーツマンシップとは、目先の利益を離れ、国家にとって真に必要な長期的利益のために動く政治を言う。

 先日、エリザベス英国女王はグラスゴーで開催されたCOP26に参加した各国首脳に向けて「一時的な政治の枠を超え、真のステーツマンシップを」と呼び掛けたが、まさにステーツマンシップ無くして地球温暖化問題には解がない。現在のまま放置をすると温暖化ガスの排出により地球の温度が上がり、気候変動によって洪水などの自然災害が頻発するので、脱炭素化を図る必要があることは理解されても、目先の利益を捨てて具体的施策をとるのは難しい。地球の温度の上昇を1.5度以内に収める目標もさることながら、今後10年の間に石炭火力を廃止することにはよほどのステーツマンシップがない限り無理だろう。国内の既得権益を超え、且つ石炭に代わる代替エネルギーを確保するのは政治的決意なくては出来ない。

 多くの民主主義国家が直面している最大の問題は、まさにこのステーツマンシップの欠落ではないかと思うし、日本も例外ではない。

拡大英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)=Paul Adepoju/Shutterstock.com

過去最大の経済対策を巡る議論

 先日日本で膨大な財政支出を伴う経済対策が決定された。55兆円という過去最大の財政支出だが、財源としては国債に依存せざるを得ない。歳出拡大と財政の規律維持は常に短期の政治的利益と長期の国益が衝突する分野だ。現役の財務次官は、このまま「バラマキ」を続けると日本の財政は破綻するという異例の意見表明を、少し前に月刊誌への寄稿で行っていた。一方、米国民主党の歳出拡大・財政赤字拡大路線を正当化する現代貨幣理論(MMT)では、自国通貨で国債を発行する限り破綻はしない、とする。

公的債務のGDP比率250%―出口戦略なく将来世代に負担押しつけ

 経済が成長し、税収が拡大し、財政赤字が是正されていくのであれば一時的に赤字国債を発行して大きな予算を組むことも有り得る選択だが、成長しないで歳出を拡大し赤字国債を増やし続けるのでは本末転倒だ。出口戦略もなく将来世代に負担を押し付け続けるわけにはいかないではないか。

 過去10年間日本は大規模な財政支出を余儀なくされてきたが、経済成長は達成されなかった。従って公的債務のGDP比は拡大を続け、今やGDP比250%を超え、破綻が近いと言われるベネズエラ、スーダンに次いで世界で三番目、G7の中では155%のイタリアを大きく超えて最悪の状態だ。55兆円の財政支出を伴う経済対策も政府の試算する通り経済成長を大きく押し上げることとなれば良いが、過去はそうではなかった。一方、どれほど公的債務を積み上げることになるのだろうか。日本のコロナ後の成長をG7中最低としているIMFの見通しを変えることが出来るのか。

選挙が念頭の短期的な政治目的の印象

 18歳以下の子供に対する給付金の支給や、長期にわたる成長のための投資を精査する前に大きな経済対策総額ありきという議論、更には30兆円という予算使い残しの報道を聞いていると、やはり選挙を念頭に短期的な政治目的を達成することに焦点が当てられているという印象を持つ。自民党が選挙に勝利するのに連携が不可欠な公明党の公約である18歳以下の子供に対する現金給付は「バラマキ」だとして代替の方法を考えるのにも政治的決意と説得が必要になる。

 今に始まったことではなく、ステーツマンシップの欠如は過去10年の顕著な傾向ではないか。

拡大政府与党政策懇談会で経済対策について発言する岸田文雄首相=2021年11月19日、首相官邸

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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