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ステーツマンシップを取り戻せ~目先の利益を離れ、真の国益のための政治を

総額ありきの経済対策、機能不全の外交――民主主義本来の姿に立ち戻るよう願う

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

外交におけるステーツマンシップの欠如も深刻

 本来ステーツマンシップの必要性は外交との関連で語られることが多い。外交には相手国がいるわけだから、短期的な国内利益の主張を行っているだけでは外交は成果を上げることは出来ない。問答無用で武力を行使し結果を求める場合は別だが、平和裏に結果を作るためには双方の国内利益の調整が必要になり、国内を説得するというステーツマンシップが必要となる。

 ところが、近年の対韓政策や対中政策を見ていると、国内の保守ナショナリズムの高まりを背景に、勢いよく自国の主張を外にぶつけるだけの傾向が強まっているのではないか。そのようなナショナリズムの傾向が強い世論に乗ることが選挙を勝ち抜くと言う短期的政治目的にはかなうのかもしれない。これをポピュリズムというのだろうが、結果、外交は機能しなくなっているのではないか。

日韓関係は中長期的な重要性の再認識を

 日韓基本条約で徴用工問題は解決しているという従来の立場を覆した韓国政府が問題解決の提案を持ってこない限り、韓国に甘い顔をしてはならないという世論に支えられた政府の方針はわからないではないが、中長期的な日韓関係の重要性を考えて関係改善に向けて動く必要はないのだろうか。何も日本の主張を妥協すべしと言っているのではなく知恵はあるはずだ。

 外交とは結果を作る静かな作業であるのだが、その動きすら見えない。関係改善を求める議論は政治家の間からは一向に聞こえてこない。中長期的な日韓関係の重要性を再認識する必要がないか。

拡大韓国の文在寅大統領と電話会談後、厳しい表情で取材を受ける岸田文雄首相=2021年10月15日、首相官邸
拡大国連総会で一般討論演説をする韓国の文在寅大統領=2021年9月21日、米ニューヨーク、韓国大統領府提供

米中対立に対しアジアの連携は重要。安全保障の鍵にも

 今日、日本にとっての最大の外交課題は米中対立にどう向き合っていくのか、だろう。安全保障を依存し、民主主義価値を共有する米国との連携が一義的に重要だとしても、貿易やインバウンドを中心に経済的相互依存関係が深い中国との関係を切り捨てるわけにはいかない。

 だとすれば同じような立場にあるアジアの諸国との連携を強化していく必要があるが、中でも韓国は経済規模の大きさから言っても重要なパートナーであるはずだ。日本の対中戦略の重要な柱であるクワッド(日米豪印)の枠組みやCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への韓国の参加を拒む理由は本来ないはずだ。

 また、北朝鮮は核やミサイルの開発を進め、これからも日本にとっての最大の安全保障上の脅威であり続けるだろう。朝鮮半島は歴史上、日本の安全保障にとって鍵となると考えられてきた。朝鮮半島の将来を考え日本にとって好ましい地域としていくうえでも日米韓の三か国連携は必須であるはずだ。

拡大TPP発効後、第1回目の委員会を開いた参加各国の閣僚ら=2019年1月19日、東京都内

威勢のいい議論のみが先行するのは日本のあるべき姿ではない

 そのような中長期的重要性に拘わらず、「正常化後最悪の関係」のまま、事あるたびに「如何に毅然とした対応をしているか」を強調する姿には大いなる違和感を持つ。日本が過去朝鮮半島に強いてきた犠牲の大きさを認識しないで威勢が良い議論のみが先行するのは日本のあるべき姿ではなかろう。

 やはりステーツマンシップの欠如としか言いようがない。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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