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ダイヤモンド・プリンセス号問題から浮かぶコロナ対応の欠陥~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第三部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑧

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 昨年2月、日本だけでなく世界中の耳目を横浜港に集めたダイヤモンド・プリンセス号の問題は、日本国内で十分に検証・解明されたのだろうか。

 少なくとも政府・自民党による検証はほとんど行われていない。ジャーナリズムによる検証も、政府や医療者側に取材したものはあるが、乗船客や乗員を対象に集中的にインタビューを重ねたものはないように見受けられる。

公衆衛生の側面だけが重視されていいのか

 このため、ダイヤモンド・プリンセス号の問題を振り返る際にはコロナウイルスの国内侵入を防ぐ公衆衛生面だけが重視され、実際に船に乗っていた乗船客や乗員という生身の人間の医療面については、それほど深くは顧みられていないようだ。

 だが、今後の感染症対策を考えるうえで、公衆衛生の側面だけが重視される考察ではたして十分なのだろうか。

 臨床医でありながらコロナウイルスに関する世界最先端の医学・科学論文を渉猟する医療ガバナンス研究所理事長・上昌広氏への連続ロングインタビュー企画「コロナ対策徹底批判」第3部は、ダイヤモンド・プリンセス号の問題から見える日本のウイルス対策の基本的な失敗の構造に光をあてる。

拡大新型コロナウイルスの患者が出た大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号から乗客たちが下船。移送するために大型バスが停車している=2020年2月20日、横浜市の大黒ふ頭、朝日新聞社ヘリから、

「医療」を必要としていた乗船客

 上氏が最も強く指摘するのは、感染症患者を乗せたクルーズ船が停泊していたのは横浜港であって、首相官邸のある東京・永田町や厚生労働省のある霞が関ではないという事実だ。別の言い方をすれば、医師ではない安倍晋三首相や加藤勝信厚労大臣(いずれも当時)、あるいは医師免許を持ってはいてもクルーズ船内部の状況を知らない厚労省・医系技官たちが、ダイヤモンド・プリンセス号の乗船客や乗員の問題に判断を下すこと自体が間違っていたということである。

 厚労省・医系技官たちや首相、厚労大臣は、国内にコロナウイルスを入れない、つまり「公衆衛生」の観点だけに基いて判断を下した。しかし、ダイヤモンド・プリンセス号には乗船客、乗員合わせて3713人もの世界中の人間が乗り合わせていた。乗船客たちは生身の体と心を持ち、コロナウイルス感染者を含めて、それぞれに様々な疾患を抱えていた。切実に「医療」を必要としていたのだ。

 ダイヤモンド・プリンセス号内部の事情を知らない厚労省・医系技官や首相、厚労大臣が、具体的な乗船客に対面する「医療」ではなく、抽象的な「公衆衛生」の観点から結論を導き出した結果、大多数の乗船客は2週間以上、最大ほぼ1カ月間、クルーズ船内に閉じ込められた。

 「感染させるために培養用シャーレに入れたようなもの」。昨年2月19日付のウォールストリート・ジャーナル日本版は、乗船していた米国人医師のこんな言葉を記事中で紹介した。

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は2020年1月20日に横浜港を出港。同25日に香港で下船した80代の男性がコロナウイルスの陽性者であることが、2月1日に確認された。連絡を受けた厚労省は同3日に横浜港で検疫を実施。その結果、31人中10人からコロナウイルスが検出された。

 ダイヤモンド・プリンセス号には世界57カ国から乗船客2645人、乗員1068人の合計3713人が乗り合わせていた。

 厚労省は、船内パーティなどでの接触飛沫感染で乗船客のほとんどが濃厚接触者に当たると判断。そのまま船内での2週間の隔離・検疫を実行した。2週間の隔離・検疫期間が終了した乗船客・乗員は順番に下船、3月1日に全員の下船が完了した。

 国立感染症研究所の報告によると、下船完了後4月15日までにコロナウイルス感染の確定症例は712例あり、その他にも検疫官や船会社医師ら外部から入った9人の感染が確認された。死亡は少なくとも14人に上った。

拡大インタビューにこたえる上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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