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ダイヤモンド・プリンセス号問題から浮かぶコロナ対応の欠陥~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第三部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑧

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

世界のメディアから袋叩きにされた日本の対応

――今回から昨年、世界中から批判的な視線を浴びて大きな問題になったダイヤモンド・プリンセス号に対する政府の対応についてお聞きしたいと思います。

 上さんはダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に停留されていた昨年2月9日に公開されたForbes JAPANで「ただ閉じ込めればいいのか。新型コロナウイルスの合理的な感染防止方法とは」というタイトルの論考を発表しています(参照)。そこでまず指摘されたのは、クルーズ船に多くの高齢者が乗船している問題でした。高齢者は基礎疾患を持っている例が多く、室内に閉じ込めることで疾患を悪化させる可能性が高いと心配されています。

 この論考にも書かれていますが、東日本大震災の後、福島県の浜通りで診療を続けていた上さんの医療チームが2011年5月21日と22日に飯舘村の住民を対象に健康診断したところ、前年の健診と比べられる564人の体重、血圧、血糖値、中性脂肪濃度が有意に上昇していた。この人たちの多くは被曝を恐れて、ほぼ2カ月間自宅に閉じこもっていたということでした。同じことがダイヤモンド・プリンセス号でも起こっていて、持病の悪化がコロナウイルス感染の増悪要因になると指摘しています。

 ダイヤモンド・プリンセス号問題の後、大きな批判を浴びたPCR検査の不足問題から現在の問題に至るまで、厚生労働省・医系技官の失敗の構造は一貫しています。すなわち、医系技官の人たちが目の前の患者さんや国民のことを真っ先に考えるのではなく、国家のこと、イコール官僚の体面をまず気にすることに起因しています。

 ところが、ダイヤモンド・プリンセス号には外国人客がたくさん乗っていて、外国人客はツイッターやフェイスブックなどで、どんどん母国に連絡したんです。それでニューヨークタイムズなど世界中のメディアが取材をしました。

 ニューヨークタイムズなどは日本政府の対応の仕方を袋叩きにしました。各国政府にとっては自国民の健康が最優先なんです。日本政府が気にしていたような、自国に入れるとか入れないとかそんなことはどうでもいいことなんです。そもそも事実としてもう入っていると思っているわけです。

 臨床医の立場から申しますと、臨床医というのは目の前の患者さんを最優先するわけです。その患者さんの状況に応じて臨機応変に対応すれば、そんなに間違わないんです。不幸にして救命できないケースも少なくはありませんが、失敗ではないんです。

「クルーズ船の乗船客を上陸させてはいけない」

拡大上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

――臨床の経験上、どうしても救命できないケースはあるけれども、目の前の患者の様子を観察しながら臨機応変の対応を打っていけば失敗はない、ということですね。

 目の前の患者さんに対して臨機応変に対応すれば、こちらが変わらざるをえない。それは、合理的に変わることを意味します。

 当時、ダイヤモンド・プリンセス号に神戸大学の岩田健太郎教授が入って、「レッドゾーン」「グリーンゾーン」といったゾーニングのことを言いましたよね。当時はそのやり方が感染症予防の常識で、今になってそれを責めることはできませんが、今では感染の主要ルートは「空気感染」であることがわかっているので、ほとんど何の意味もないことだったんですね。

 これを悪いと言うつもりはありません。当時は仕方なかったと思います。だけど、問題は、こうした対応は感染症学のこれまでのエビデンスを押し付けただけで、たぶん患者さんの実態を反映していなかったという点にあります。

 具合がいいとか悪いとかは、患者さんを直接みればわかります。なのに、会うこともせずに、会議室で議論ばかりしている人がいる。「むしろ公衆衛生は患者をみないのがいいんだ」みたいなことを公言している人間すらいた。「我々は患者を直接みないから大局に立って判断できるんだ」と平気で言うんです。

――それだと机上の空論になりませんか。

 そうです。実はそのころには日本国内には陽性者が相当入っているはずなんです。たとえばタイ人夫婦の問題もありました。

 ダイヤモンド・プリンセス号問題が起きる直前の昨年1月下旬、日本を旅行していたタイ人夫婦の妻が体調を崩し、タイに帰国した2月4日に二人とも新型コロナウイルス感染が確認された。

 つまり、ダイヤモンド・プリンセス号問題が起きる前に、すでに日本には感染者が入っていた蓋然(がいぜん)性が高い。ダイヤモンド・プリンセス号の乗船客を国内に入れる入れないなどという議論は、意味のない話だったんです。

 必要なのは、乗船していた目の前の患者さんの状況に合わせて、融通の効く対応に変えていくことでしたが、そうはならなかった。官僚がいったん決めた机上の空論を押し付け続ける。太平洋戦争の時から現在のコロナ対応まで続く、日本の政治の基本的な問題だと私は思いますね。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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